SEAとは?

SEAとは何か?

ソーシャリー・エンゲイジド・アートには、いまだ普遍的な定義はありませんが、SEAリサーチラボでは次のように理解しています。
ソーシャリー・エンゲイジド・アート(SEA)とは、アートワールドの閉じた領域から脱して、現実の世界に積極的に関わり、参加・対話のプロセスを通じて、人々の日常から既存の社会制度にいたるまで、何らかの「変革」をもたらすことを目的としたアーティストの活動を総称するものである。

しかし、これまで多くの研究者やアーティスト、キュレーター、評論家、ジャーナリスト、支援団体などが、さまざまな言葉を用いてSEAやSEAに相当するアート実践の概念や背景について論じていますので、その一部を紹介します。

 

私は、モノを作るアーティストから、コトを起こすアーティストに身を転じた。

ジェレミー・デラー

 

ソーシャリー・エンゲイジド・アートは、世界とエンゲイジして世界をよりよく変えたいと思うアーティストによって考案されたプラクティスであり、今日私たちが直面する最大の課題の一つは、このプラクティスと社会正義との関係を理解することである。

パブロ・エルゲラ
『ソーシャリー・エンゲイジド・アート入門』日本語版への前書き

 

カテゴリーとしてのソーシャリー・エンゲイジド・アートは、いまだ概念構築の途上にある。しかしながら、多くの解説では、その系譜はアヴァンギャルドに端を発し、ポスト・ミニマリスムの出現で著しく拡大したとされている 。1960年代の社会運動は、アートと社会を結びつけ、プロセスやサイト・スペシフィティを重視するパフォーマンス・アートやインスタレーション・アートを生み、それらすべてが今日のソーシャリー・エンゲイジド・アートに影響を与えている。過去数十年、社会的相互作用(ソーシャル・インタラクション)に基づくアートは、「関係性の美学(relational aesthetics)」、あるいはコミュニティ・アート、コラボレイティブ(協働型)アート、パーティシパトリー(参加型)アート、ダイアロジック(対話型)アート、パブリック・アートなど多くの名称で特徴づけられてきた…最近の出版物やシンポジウム、展覧会では、「ソーシャル・プラクティス」が目立つようになり、ソーシャリー・エンゲイジド・アートを指す用語としてもっとも広く使われている。

パブロ・エルゲラ
『ソーシャリー・エンゲイジド・アート入門』第1章「定義」

 

過去20年来、美学を用いて社会変動に影響を与えようとするさまざまな表現活動が生まれた。この種のアートワークの多くは、アーティスト一人の手でつくられるのではなく、集団で制作されたり、コミュニティの営みの中から生まれている。参加、対話、行為に重点を置き、それが出現する範囲は、演劇からアクティビズム、都市計画、ビジュアルアート、ヘルスケアまで幅広い。そして、この種のアートワークは、人々の生活の中に織り込まれ、アートとライフの境界をぼやけさせる。

「リビング・アズ・フォーム」プロジェクト概要
CREATIVE TIMEウェブサイト

 

「ソーシャル・プラクティス」として知られるアートの実践者たちは、物づくり、パフォーマンス、政治的アクティビズム、コミュニティ構築、環境保護主義、調査報道の間の境界を自由にぼやかし、奥深い参加型アートをつくりだしている。そしてそれは、多くの場合、ギャラリーや美術館の制度の外で隆盛を極めている。

ランディ・ケネディ
「ニューヨークタイムズ」2013.3.20
“Outside the Citadel, Social Practice Art Is Intended to Nurture”

 

この種のアート(参加型アート)に関する最近の文献では、批評家は、アーティストによって設計されたプロジェクトとアーティストと参加者との対話やコラボレーションを通じてつくられるプロジェクトとを区別するようになっている。
※フィンケルパールは、前者を“パーティシパトリー”あるいは“リレーショナル”、後者を“コーペラティブ”と呼んでいる。

トム・フィンケルパール
『What We Made~Conversation on Art and Social Cooperation』 イントロダクション

 

「ユースフル・アート」とは、社会におけるアートの遂行に焦点を合わせた美的体験の実現に取り組む方法である。そこでのアートの機能は、もはや問題を“示唆する(signaling)”スペースとなるのではなく、そこから可能な解決策の提案や実行が生まれる場となることである。
※ブルゲラはソーシャリー・エンゲイジド・アートを「Useful art」と表現している。

タニア・ブルゲラ
「Introduction on Useful Art」

 

アート・プラクティスは、資本主義支配との闘いにおいて、役割を果たすことができると私は思う。しかし、いかに有効な介入が行えるかを構想するには、民主主義政治の力学を理解することが必要だ。
ポスト・デモクラシーの世界では(そこでは、冷戦後のコンセンサスが民主主義の偉大な進歩と称賛されている)、批判的なアート・プラクティスは、コーポレート・キャピタリズムがまき散らそうとしている口当たりの良いイメージを、その抑圧的な本性を前面に押し出しながら、混乱させることができる。

シャンタル・ムフ
エッセイ「Art and Democracy―Art as an Agonistic Intervention in Public Space」

 

今日私たちは、ソーシャリー・エンゲイジド・アートが世界中で開発されているのを目にする。インドからエクアドルまで、セネガルからウクライナまで、カンボジアからアイルランドまで…。この分野は多様性に富んでいるが、アーティスティックな実践と知識生産の他の分野(批判的教育学、参加型デザイン、アクティビスト・エスノグラフィ、急進的ソーシャルワークなど)との新しい関係を構築しようという共通の願望に突き動かされている。それは多くの場合、世界中の社会的・経済的正義を求める新しいムーブメントに刺激を受け、あるいはその運動と結びついている。この分野の実践全体にわたって見て取れるのは、レジスタンスとアクティビズムの場との持続的エンゲイジメント、そしてアートと政治の既存の定義を乗り越えようとする願望である。

グラント・ケスター
ウェブジャーナル『FIELD』Spring 2015

 

1990年代初頭に世界的な現象として出現したソーシャリー・エンゲイジド・アートは、ネオリベラリズムの上昇と同時発生している。この2つの言説は、どちらも、創造性、適応性、自立、地域とのエンゲイジメント、世界的認識、(社会的)起業家精神、プロダクトよりプロセス重視をアピールしている点で類似している。しかし、多くのアーティストやプロデューサーは、資本主義をあからさまに批判し、意味や価値のオルタナティブなシステムを生み出していると自認している。

シンポジウム「Socially Engaged Art in Japan」(ワシントン大学 2015.11)の概要

 

SEAに特化した助成事業を行っている「ブレイド・オブ・グラス」の助成要件(What we fund)
①アートがソーシャル・チェンジの触媒となるソーシャリー・エンゲイジド・プロジェクト 
②アーティストがリーダーシップをとるプロジェクト 
③コミュニティとの持続的なパートナーシップを重視する、対話に基づくプロジェクト 
④プロセスの中に、非アーティストとの共同制作が含まれる 
⑤プロダクトよりプロセスを評価する:関係性の構築と問題解決が主要な目標

ABOG Fellowship for Socially Engaged Art
A Brade of Grass ウェブサイト

 

「関係性の美学」は、もともと特定のアーティストの作品を議論するために造語されたにもかかわらず、インタラクティブand/or ソーシャリーな側面を持つどんなアートワークにも軽率に使われるキャッチフレーズになってしまった。近年のリレーショナル傾向は、ブリオーのモデルを離れ、介入的オフサイト・プロジェクト、対話型・教育的モデル、ネオ・アクティビスト戦略、ますます機能主義的になるアプローチ(アートと建築の協働グループなど)を含んでいる。これらの多くは、その1980年代からの先行事例同様、アートワールドの主流から外されている。

マリア・リンド
エッセイ「On Collaboration, Agency and Contemporary Art」
Public journal vol.39 2009

 

「ソーシャリー・エンゲイジド・プラクティス」は、ソーシャル・プラクティス、ソーシャリー・エンゲイジド・アートとも呼ばれ、人々やコミュニティを議論や協働、社会的相互行為に巻き込むアートフォームならどんなものも含む。これは、アウトリーチや教育プログラムとしてしばしば行われるが、多くのアーティストたちもその独自の活動において同様の方法を用いている。スザンヌ・レイシーが名付けた「ニュー・ジャンル・パブリック・アート」もソーシャリー・エンゲイジド・プラクティスの一形態である。

TATE Art Terms
テート・ギャラリーウェブサイト

 

「ソーシャル・プラクティス」は、場所(site)、社会システム、協働者と直接エンゲイジするさまざまな形式(forms)によって生み出されるアートワークを広く意味する。本来分野横断的で、ゲリラ的介入、パフォーマンス、制度批判、コミュニティに密着したパブリック・アート、政治的活動といったかたちをとることが多い。それらは全て、公共圏で創造されるアートは人々の認識を変え、社会変革をめざす活動に寄与できるという前提を共有している。

UCバークレー ソーシャル・プラクティス学科

 

共同制作はソーシャリー・エンゲイジド・アートの中心的特徴であると言えるだろう。なぜなら、アート形式のこの側面は、ソーシャル・チェンジの促進に成功するための条件を2つのきわめて重要な道筋で生み出すからである。一つは、プロジェクトの予定期間を超えて長期的なインパクトを与えられること、もう一つは、根本的なソーシャル・チェンジを妨げる権力構造を崩壊に導くことができることである。

エリザベス・M.グラディ(A Blade of Grassプログラム・ディレクター)
『Future in Perfect』より

 

私は自分の仕事において、シンボリック(美学)とプラクティカル(成果)の両方に気を配っている。

リック・ロウ
『Future in Perfect』より

 

「ソーシャリー・エンゲイジド・アート」の実用的な定義は、特定のコミュニティまたは世界全体の状況を改善することを目的とした芸術的または創造的な実践である。

Helicon Collaborative
「Mapping the Landscape of Socially Engaged Artistic Practice」より