SEAラボブログ

ヒューストンで、アーティストと活動家のブレインストーミング・セッション

2017年09月27日

テキサス州ヒューストンのNPO「ダイバースワークス(DiverseWorks)」は、1982年の創立以来、オルタナティブ・アート・スペースを運営し、革新的なプログラミングによって、アーティストの新しいアイディアを支援するとともに、アーティストとコミュニティの対話の場をつくってきた。

プロジェクト・ロウ・ハウスの実現にもこのNPOが重要な役割を果たしている。打ち棄てられたショットガンハウスに魅力を感じたリック・ロウたちアーティストのグループは、まずダイバースワークスを訪ね、ぜひ見てほしいとスタッフを現地まで引っ張って行った。すると彼らも興奮し、これは一時のイベントではなく長期的に活用できるだろうと、NEA(全米芸術基金)に助成申請をした。NEAも興味を示し、それが功を奏して、ロウたちはショットガンハウスを不在家主から買い付け特約付きで借り受けることに成功したという。

ダイバースワークスでは、9月23日から11月18日まで、「Lines Drawn(引かれた線)」と題する、国境や境界線にまつわる諸問題(移民、ナショナリズム、公平、人権)に取り組むアートワークを集めた展覧会を開催中だ。その関連プログラムとして、10月11日に「Artist/Activist Matchmaking」という、アーティストとアクティビストが矢継ぎ早に(rapid-fire)ブレインストーミングする場が設けられる。

このプログラムを企画したのは、プロジェクト・ロウ・ハウスとヒューストン大学マクガバン・カレッジ・オブ・アーツが共同で創設したフェローシップ(CotA-PRH Fellow)の2017年のフェローに選ばれた若手アーティスト、キャリー・シュナイダー。ブレストのテーマを、今ヒューストンで議論されている大きな社会問題―環境正義、反ジェントリフィケーション、LGQTIA、移民受け入れ、刑事司法改革、BLMHTXのハリケーン・ハービー救援の6つに設定。セッションの目的は、人材不足と燃え尽き症候群に陥っている活動団体に新しいアイディアを注入し、意欲的なアーティストを政治的関与に結びつけることだという。

スローガンは、“We are NOT making signs, we are making new possibles”
日本でも、こんなセッションが活発に行われるといいと思うのだが。

(秋葉美知子)

アーティストが被災地支援に取り組むときのガイドブック

2017年09月21日

『アートは酸素になった:アーティスティック・レスポンス・ガイド』という、なかなかそそられるタイトルのガイドブックが、「米国芸術文化省(U.S. Department of Arts and Culture)」と名乗る、アーティストや文化関係者たちの草の根アクション・ネットワークのウェブサイトで公開されている。
大地震やハリケーンといった自然災害、テロや暴動、環境破壊などの人為的な危機に直面して、何か役立つことをしたいと立ち上がるアーティストやアート団体は多いだろう。そのときアートは何ができるか? 癒やしや絆づくりにとどまらず、プロテスト、体験の創造的な再構成や回復力の強化まで、目的や範囲は幅広い。
このガイドブックは、緊急時についての本質的な理解から、カテゴリー別の実践例(物語の収集、パブリック・アート、詩と話術、音楽、ダンス、演劇、メディアと写真、アーティストの個人的作品制作)、アーティストと公的な危機管理組織との連携、コミュニティで活動するときに必要なスキルや心構えまで、アーティスティック・レスポンスを意味あるものにするために知っておくべきポイントや事例、情報ソースを74ページにわたってまとめたものだ。もちろん、米国の読者に向けた編集だが、事例やリンク、実践者の話などが豊富に掲載されていて、私たちにも参考になる手引書だ。

(秋葉美知子)

クリエイティブ・タイム・サミット2017のテーマは「Of Homelands and Revolution」

2017年09月20日

Creative Timeのウェブサイトより

ニューヨークのNPO、Creative Timeが2009年に始めた「クリエイティブ・タイム・サミット」は、SEAの国際的プラットフォームとして定着した感がある。10回目の今回から、キャッチコピーが少し変わり、以前の“アートと政治の交差点を探求するリーディング・コンファレンス”から、“アートと政治の交差点で活動する思想家、夢想家、実行者のための年に一度の大会”となった。
9月28日から30日にカナダのトロントで開催される今年のサミットのテーマは、「Of Homelands and Revolution(母国と革命について)」。Homelandsで、亡命者、強制退去者、難民を生む暴力的な国境や世界に伝染するナショナリズムに関連づけるとともに、Revolutionでは、今年がロシア革命100年に当たることから、今一度この歴史的出来事を振り返り、今日のアーティストやアクティビストの社会正義を求めるラディカルな活動につなげる意図がある。それを象徴するように、基調講演者はガヤトリ・スピヴァク。その他の登壇者には、アローラ&カルサディーラ、ココ・ファスコ、ロシアのアーティスト・コレクティブChto Delat (What is to be done?)といった名前がクレジットされている。
プレゼンテーションやパフォーマンスは後日ウェブサイトにアップされるので、楽しみにしたい。

(秋葉美知子)

バーチャル・シンクタンクCreatequity が第1回「アーツリサーチ賞」発表

2017年08月15日

NVSQは、NPOとフィランソロピーに関する学術研究者のネットワークARNOVAの季刊誌

3月27日に、Createquityが「アーツリサーチ賞」を創設したニュースを投稿したが、その選考結果が発表された。500を超える候補の中から、米国でノンプロフィット・マネジメントを研究するMirae Kimによる「Characteristics of Civically Engaged Nonprofit Arts Organizations: The Results of a National Survey(市民参画型アートNPOの特徴:全国調査結果から)」が最優秀賞に選ばれた。Kimは現在、ジョージア州立大学アンドリュー・ヤング政治学スクールの助教。

NPOはさまざまな役割(市民参画志向の役割とマーケット志向の役割の両方を含む)を果たしているが、市民参画志向型アートNPOはマーケット志向型アートNPOと対比してどのような特徴を持つかを、アートNPOディレクター21人へのインタビュー、全米から層化抽出した900を超えるアートNPOに対するサーベイ、これらのNPOのIRS(内国歳入庁)への税務申告、に基づいて考察したもの。その結果から、市民参画志向型アートNPOの特徴として以下の3点を導き出している。①幅広いネットワークを持つ、②“市民参画(civic engagement)”を、業界の規範(industry norm)として認識している、③NPOの法的立場を自覚している。また、NPOの自己収入と市民参画とは負の相関があること、政府による資金補助と市民参画志向の行動パターンとは相互関係がないことも見いだされたとしている。

この調査研究は、学術ジャーナル「Nonprofit and Voluntary Sector Quarterly」のVol.46(2017年)に掲載されている。残念ながら、フルテキストを自由にダウンロードすることはできないが、その概要はCreatequityのウェブサイトに紹介されている。
また、この最優秀賞に加え、次点(1)と特別賞(5)も同時に発表された。

(秋葉美知子)

HIV/エイズ・アクティビスト・グループ、ACT UPの運動は続く

2017年07月22日

ACT UP at the June 2017 Pride March, New York City ©Mark Apollo/Hashtag Occupy Media

ACT UP(AIDS Coalition to Unleash Power)といえば、SEAの歴史をたどる上で忘れてはならいアクティビスト・グループだ。エイズ危機に対する米国政府の無理解・無策への怒りから、1987年にニューヨークで結成。SILENCE=DEATH のロゴを使ったポスター、Tシャツ、バッジ、ネオンなど、アーティスト・コレクティブGran Furyが手掛けるグラフィックデザインや宣伝広告手法を駆使して、エイズについての正しい知識の伝播、政府や製薬会社への抗議行動などを展開し、エイズ治療薬の開発・普及を加速させる大きな力となった。ACT UPは現在も、社会的弱者のニーズを汲んだヘルスケア・システム構築の緊急性を訴え続けている。

結成30周年を迎えたACT UPは、6月25日にニューヨークで行われたプライド・マーチに参加し、「メディケイド」「オバマケア」「ライアン・ホワイト・ケア・アクト」「PEPFAR(大統領エイズ救済緊急計画)」といったトランプ政権下で危機に瀕している医療保険制度やエイズに関連する公的支援の名称を記した黒い棺をメンバーがかついで行進した。

ニューヨーク市の津博物館ウェブサイトより

一方、ニューヨーク市立博物館では、10月22日まで「AIDS at Home: Art and Everyday Activism」と題する展覧会が開かれている。「介護」「住居」「家族」の3つの視点から、患者の私的生活を見つめ、支えたアーティスト20余人による絵画、写真、ビデオ作品や、アクティビストの活動記録などを、30年のスパンで展示している。エイズ禍であらわになった社会の課題はまだまだ終わっていない。

(秋葉美知子)

英国アーツカウンシルによるアート・クオリティ数値評価導入が失速しているわけは?

2017年07月21日

昨年10月22日の投稿で、英国アーツカウンシル(ACE)は、年額25万ポンド(約3,600万円)以上の補助金を支給しているメジャーな芸術文化団体(National Portfolio OrganisationsとMajor Partner Museums)に対し、その団体が行う演劇や音楽の公演や美術展などの個々のプロダクションについて、共通のコンピュータ・ソフトを使ったクオリティ評価を義務化し、今年の4月から導入予定と書いた。この施策に対しては、そもそも芸術的クオリティは数値で計測できるのか、ということから、オーウェル流の監視システムだ、成績表をつくって補助金支給の判断基準にするのではないか、評価項目が包括的すぎて意味がないなど、さまざまな批判の声があがっていた。
しかし、いまだにこの事業を請け負う業者の入札結果も発表されず、計画は立ち往生しているという。その理由は、内容の是非ではなく、業者の入札方法が、公的予算を使ってこの評価システムの開発とトライアルを行ったコンサルタントの会社が圧倒的に有利になるような仕組みで、EUの調達ルールに抵触するということらしい。英国にも、「〇〇ありき」を疑われる選考プロセスがあるようだ。

参考記事 Quality Metrics stalled as ACE falls foul of procurement rules

(秋葉美知子)

アートコレクターが所有作品を売却して社会正義のためのアートを支援する基金を設立

2017年07月19日

Art for Justice Fundのウェブサイトより。5年間の取り組みとして創設された

前回の投稿で、ロバート・ラウシェンバーグ財団が、米国で深刻な「大量投獄問題 mass incarceration」に取り組むアーティストに助成していることを紹介したが、またひとつ、この問題にフォーカスする助成基金が誕生した。

この「Art for Justice Fund」は、アートコレクターでMoMAの名誉理事でもあるアグネス・ガンドが、自身の所有するロイ・リキテンシュタインの「Masterpiece」(1962)を、ヘッジファンド・マネージャーのスティーブン・A・コーエン氏に1億5000万ドルで売却し、その収益をもとに設立したもの。基金のウェブサイトには、「我々が立ち向かわねばならない問題」として次のようなステートメントが書かれている。

米国では毎年700億ドルが矯正事業に使われ、巨大な刑務所産業を支えている。
米国の囚人数は全世界の囚人数の25%を占めている。今日の米国では、黒人男性の3人に1人、ラティーノの6人に1人が刑務所生活を経験することになるとみられ、これは白人男性の17人に1人に比べてはるかに高い。そして大半の囚人は貧しいコミュニティの出身である。このような不均衡な結果を生むクリミナル・ジャスティス政策はコミュニティ全体を破壊する。
しかしながら、投獄、再犯を減らすためのプログラムに対する投資はほとんどない。
これはなんとかしなければいけない。

ガンド女史は他のコレクターにも所有する美術品を売却して基金に貢献するよう呼びかけており、すでに数人が応じているという。しかし、貧困や格差の拡大を生じさせる社会のパワーストラクチャーはそのままに、1%の富裕層がアート作品を資金源に社会正義のためのアートを支援するというこのねじれ現象には、複雑なものを感じてしまう。

ガンド女史がこの基金創設に至った経緯は、ニューヨークタイムズの記事に詳しい。

(秋葉美知子)

アクティビスト・アーティストを支援するロバート・ラウシェンバーグ財団

2017年07月13日

Robert Rauschenberg Foundationのウェブページより Chicago Torture Justice Memorials. Photo: Sarah Ross

米国にはSEAのアーティストやプロジェクトを支援する民間の助成プログラムがいくつもある。ロバート・ラウシェンバーグ財団の「アーティスト・アズ・アクティビスト」もその一つだ。
ラウシェンバーグ(1925-2008)といえば、新聞、写真、絵画の複製などのグラフィックイメージに日用品やファウンドオブジェクトを組み合わせた「コンバイン」と称する作品を生み出し、ポップ・アートの先駆者として知られているが、一方で熱心な社会活動家、フィランソロピストでもあった。
ラウシェンバーグ財団は、「Art can change the world」という彼の理念に基づき、「アーティスト・アズ・アクティビスト」のほかにも、教育や気候変動に関する助成事業やアーティスト・イン・レジデンスなどを行っている。
先日、「アーティスト・アズ・アクティビスト」の2017年のフェローシップが発表された。
米国で深刻な「大量投獄問題 mass incarceration」が、昨年に引き続き今年度のテーマで、275件の応募があったという。その中から、さまざまな芸術的戦略を使いながら、問題提起にとどまらず、実際の行動を促し、新しい政策や実践を構想するアーティスト/アーティスト・コレクティブが、9人(組)選ばれた。2年間の活動助成金としてそれぞれ10万ドルが支給される。

(秋葉美知子)

ロンドン市長が32の特別区対象に文化イベントのコンペを立ち上げ

2017年07月10日

「文化はロンドンのDNA」と言うロンドンのサディク・カーン市長は、欧州文化都市や英国文化都市事業にインスパイアされ、「ロンドン文化特別区」という名の企画コンペを実施することを発表した。ロンドンの32の特別区を対象として、文化イベントや幅広いクリエイティブワークを募集して審査し、2019年と2020年に1件ずつ優勝区を決定。「ロンドン文化特別区」の称号と、それぞれ、最大110万ポンド(約1億6000万円)の実施費用が与えられる(総予算の30%は自己調達)。さらに、次点を6件選び、総額60万ポンド(約9000万円)を分割支給するという。
このコンペを広報する動画には、市長のメッセージとして、こんな文言が踊っている。

ロンドンは世界の文化首都です。
私たちのコミュニティとネイバーフッドは創造性と独自性の豊かなつづれ織りで、その表現の多様性はロンドンが活力ある都市であることを物語っています。
そして今、首都の文化はこれまで以上にエキサイティングになっています。
だからこそ、この偉大な都市の市長として、初めての「ロンドン文化特別区コンペティション」を立ち上げることを誇りに思います。
ロンドンのどの特別区も、人々とアイディアを結集する文化プログラムを実行するチャンスを勝ち取ることができます。
文化は、生活を変革する素晴らしい力を持っています。新しい友情を築き、新しい物語を語り、新しい歴史を書き上げます。
今こそ、あなたの区がその創造性、コラボレーション、そして個性を世に知らせるために取り組むときです。
「ロンドン文化特別区」の称号を得て、あなたの区がいかに刺激的かをロンドンに見せましょう。
さあ「ロンドン文化特別区」に応募しましょう。

イギリスの文化的多様性と競争社会を象徴するような文化政策。ゲームチェンジングなプログラムを期待するということだが、コミュニティ・レベルでビッグ・プロジェクトを実現するチャンスになる一方、創造都市政策を補強する道具になるのでは?という懸念も出てきそうだ。応募締め切りは2017年12月1日。審査発表は2018年2月に予定されている。好事例紹介を含むカラフルなガイドブックもつくられており、日本の都市の文化政策の参考にしたい方はダウンロードを。

(秋葉美知子)