移民・難民をめぐる社会的状況におけるアートの役割

『移民・難民・アート』(ヘウレーカ)

左から川上幸之介、金井真紀、髙谷幸
米国トランプ政権が、移民・関税執行局(ICE)の権限を使って過去最多規模の強制送還や不法移民の摘発を行い、その暴力的な摘発に対する抗議行動が全米各地で起こっていることは、周知の事実になっている。日本でも最近、移民・難民を含む外国人政策が政治課題としてにわかにクローズアップされている。
そんな状況下、『移民・難民・アート——越境する想像力』と題するアンソロジーが出版され、刊行記念のトークイベントが5月31日に東京都三鷹市のインディーズ書店UNITÉ(ユニテ)で行われた。登壇者は、書籍の編集を手がけた川上幸之介さんと髙谷幸さん、そして読者の立場から、多様な背景を持つ人びとの話を聞いて、その暮らしや文化を本にしている文筆家・イラストレーターで「難民・移民フェス」の実行委員でもある金井真紀さん。川上さんは、英国留学を経て、パンクの思想を探究し、倉敷芸術科学大学で教鞭をとる傍ら、現代アートのギャラリーKAGのディレクターを務めている。髙谷さんは、移民研究を専門とする社会学者で、移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)の運営委員としても活動している。
移民・難民の歴史や現状に取り組むSEAのプロジェクトは、決して少なくない。このサイトの「プロジェクト紹介」ページでも、クシシュトフ・ヴォディチコの「ティファナ・プロジェクション」、タニア・ブルゲラの「イミグラント・ムーブメント・インターナショナル」、レニー・ヤンの「チャイニーズ・ウィスパーズ」を紹介してきた。公募による「エンブレイシング・アワ・ディファレンス(EOD)」展も、偏見をほどき、多様性をセレブレートするビルボード作品が並ぶ。
トークセッションでは、髙谷さんが、日本の現状について「移住連の活動は負けいくさのようなもの。制度が前提で少しでも風穴を開けることが目的になり、根本的に新しい、未来への発想に至らない。そこに“アート”の関わる意味があるのではないか」と語る。そこから『移民・難民・アート——越境する想像力』の編集企画が生まれたという。取り上げられたトピックは、「(第三者が)アートを通して移民・難民をとらえること」と「移民・難民自身がアートや社会にもたらすこと」の両面にまたがり、実践例からキーパーソンへのインタビュー、研究者による論考まで、アラカルト・メニューのような構成になっている。それらのどれかが読者の関心に刺さり、対話や議論を始めるきっかけになれば、という発想だろう。
鼎談の中で印象的だったのは、「社会があきらめムードの中、これは元気が出る本です」という金井さんの言葉。タニア・ブルゲラの挑発的なプロジェクトを評して「この人、ぶっとんでる!!」という率直な感想も、アクティビズムのアートを追いかけてきた私にとってはとても新鮮だった。
2026.6.10 (秋葉美知子)



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