スザンヌ・レイシー初の大規模回顧展が4月からサンフランシスコで開催
米国LAを拠点とするアーティスト、スザンヌ・レイシーは、1970年代からフェミニスト・アートを牽引し、90年代には「ニュージャンル・パブリック・アート」という用語をつくり出し、ソーシャリー・エンゲイジド・アートのパイオニアとして、また教育者、著述家として、実践と理論の両面で長いキャリアを築いている。その大規模な回顧展が、4月20日から8月4日まで、サンフランシスコ近代美術館とその隣に立地するイエルバ・ブエナ芸術センターで開催される。
パブリック・アートやSEA(あるいはソーシャル・プラクティス)の分野ではすでに大御所的存在のレイシーだが、メジャーな美術館でのソロ展覧会は初めて。それだけに、期待も高まる。というのも、レイシーのような、美術館での展覧会を主目的に作品制作をしているのではなく、社会的な「プロセス」に重心を置くアーティストが、自身の過去のプロジェクトを美術館のハコの中でどのようにプレゼンテーションするのか? 彼女のことだから、単に過去のアートワークの記録写真やビデオの展示・上映、インスタレーションの再構成などで終わるとは思えない。
レイシーは、2017年2月に森美術館で行われた国際シンポジウム「現代美術館は、新しい『学び』の場となり得るか?」の基調講演で、「ソーシャル・プラクティス・アーティストと美術館」をテーマに、自身の経験を事例に非常に重要な問題提起をしていた。
「美術館が他の場所で発生したプロジェクトを見せるとき、さまざまな問題が出てきます。ひとつは、そのアートワークが最初の場所でもたらした感情的、政治的インパクトを美術館でどのように再現できるか、あるいはそもそも再現は可能なのか。もうひとつは、その実践における社会的、交渉的側面がどのように示されるかです」(注1)
美術館の展示の作法は現場での実践とは違う、オーディエンスも違う。
「コミュニティに深く入り込んだ活動は、美術館の美学的環境に適しているのか? 美学に重点を置く場合は、コミュニティの参加者を作品の素材として利用しているのではないか? そのアートワークが活動のレガシーを失わずに美術館に収蔵され、展示されるにはどんな方法があるのか。そのアートワークをさまざまな場所で紹介するために必要なコミュニケーションの形式には、どんなものがあるでしょうか」(注2)
その答えは、「We Are Here」というタイトルにあるのかもしれない。
注1 森美術館, MAM Documents 003『現代美術館は、新しい「学び」の場となりえるか? エデュケーションからラーニングへ』, 2018, p.41
注2 同書、p.53
2019.1.22(秋葉美知子)
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