リー将軍の銅像を溶かして、コミュニティのためのパブリック・アートに

2020年、ミネソタ州ミネアポリスで白人警官の過剰な暴力によって黒人男性が殺害された事件(ジョージ・フロイド事件)を引き金に、ブラック・ライブス・マター運動が全米で加熱し、それと呼応して、人種差別・白人至上主義を象徴する記念碑の破壊運動が急増した。その先駆けとなった出来事が、2017年のシャーロッツビル事件だった。

シャーロッツビル市中心部の公園に100年近く立っていたリー将軍の銅像

ヴァージニア州シャーロッツビルは、合衆国第3代大統領のトーマス・ジェファーソンの出身地で、ジェファーソンの私邸のモンティチェロは、世界遺産にも登録された人気の観光スポットになっている。また4第代大統領のマディソンと第5代大統領モンローの邸宅も近くにあり、市は3人の元大統領を称えて市庁舎の外壁に彼らの像を設置している。しかし、シャーロッツビルで最も目立つパブリック・アートは、市と何の関係もない、南軍の将軍、ロバート・E・リーを記念して慈善家が寄贈したブロンズ像だったという。この像は、南北戦争後に南部の白人たちによって広められた「失われた大義」という、南部連合の戦いを英雄的で正当なものとし、戦争の原因や結果を美化するイデオロギーを体現するものだった。

2017年2月に市議会は彫像の撤去を決議した。これに抗議して、同年8月、白人至上主義者、ネオナチ、KKK、オルタナ右翼などが市に押し寄せて「ユナイト・ザ・ライト・ラリー」を開催すると、対抗する人種差別反対派と激しい衝突が起こり、死者も出る事態となった。

その後、銅像撤去は、差し止めを求める団体の提訴などでなかなか進まなかったが、ついに2021年に実現し、市はその像をジェファーソン・スクール・アフリカン・アメリカン・ヘリテージ・センター(アフリカ系アメリカ人の歴史・文化・遺産の保存と教育を目的とする非営利団体/JSAAHC)に寄贈した。JSAAHCは、この像を溶かしてインゴット(鋳塊)にし、それを素材に、人種的包摂、美、癒やしを表現する新しいパブリック・アートに作り変えるプロジェクト「剣を鍬に(Swords Into Plowshares)」を地域の賛同を得て立ち上げた。

解体した銅像を溶解 © Eze Amos Photography
溶解してインゴットに © Eze Amos Photography

プロジェクトは現在、作品をデザイン、製作、設置するアーティスト/チームを公募している。RFQの提出期限は4月24日、6月17日に最大5名のセミファイナリストが発表される予定だ。セミフィナリストには、それぞれ1万ドルが支給され、シャーロッツビルを訪れてサイトの視察、地域住民や歴史家との交流などを経て、設計案を作成する。https://www.sipcville.com/callforartist

溶解した銅像からつくられたインゴット。SWORD INTO PLOWSHARESの文字が刻まれている  © Eze Amos Photography

「剣を鍬に」は、『旧約聖書』イザヤ書2章4節から発想したプロジェクト名だという。
 主は国々の争いを裁き、多くの民を戒められる。
 彼らは剣を打ち直して鋤とし、槍を打ち直して鎌とする。
 国は国に向かって剣を上げず、もはや戦うことを学ばない。

この試みは、ペドロ・レイエスが発砲事件の絶えないメキシコの都市で行った「ピストルをシャベルに」と似た発想だが、レイエスが「死の道具がいかに生の使者になるか」を示したとすれば、http://searesearchlab.org/case/reyes.html、シャーロッツビルの新しいアートは、過去の長い歴史を断ち切り、民主主義の価値観を示すものになるだろう。もちろん、それが白人至上主義者からの攻撃を受けるリスクは否定できないが、地域社会の参加を力に、真のソーシャリー・エンゲイジド・アートが実現することを期待したい。

2025.3.26(秋葉美知子)