アクティビスト・アートのレガシーを今に繋ぐ:ブルックリン美術館「Agitprop!」展

ジェントリフィケーションが止まらないニューヨークでは、アーティストが低家賃で借りられるスタジオ・スペースが浸食され続けているという。昨年の11月、不動産業者600人以上が集まる「リアルエステート・サミット」にブルックリン美術館が会場を貸したことにアーティストたちが団結して抗議行動を起こしたというニュースを読んだ。

そのブルックリン美術館で今「Agitprop!」と題するクリエイティブ・アクティビズムに焦点を合わせた展覧会が開かれている(2015年12月11日から2016年8月7日まで)。Agitpropとはアジテーションとプロパガンダを合成した、いわゆる“アジプロ”。学生運動世代には懐かしい言葉かもしれない。

一方で、旧ソ連のプロパガンダ、米国の女性参政権運動、ティナ・モドッティのメキシコでの社会主義写真、WPAの連邦演劇プロジェクト、全米黒人地位向上協会の反リンチキャンペーンという歴史的事例、もう一方で、今日的政治問題・社会問題に取り組んできた現役アーティストのプロジェクトを関連づけながら並置する。ポリティカル・アート今昔物語といったところだが、この展覧会が話題になっているのは、そのキュレーションである。合計50人(組)以上のアーティストが紹介されるのだが、一度に全ての作品や資料を見せるのではなく、3段階で展示が増殖していくという仕掛けだ。まず最初にキュレーターが第1ラウンドのアーティストを選び、次にそのアーティストがそれぞれ別のアーティストを推薦して第2ラウンド(2月17日~)が構成される。さらに第2ラウンドのアーティストが第3ラウンドのアーティストを推薦。4月6日にようやく全貌が明らかになる。レジェンドとベテランに若手が次々加わっていくという感じだろうか。アーティストが展示内容のセレクションに参加するこの試みは、アジプロの協働精神をキュレーションに反映したものだという。

現在第2ラウンドのアーティストまで発表されていて、たとえば、第1ラウンドのココ・フスコはローリー・ジョー・レイノルズを推薦、ゲリラ・ガールズはオキュパイ・ミュージアムズを、ジェニー・ホルツァーはレディ・ピンクを、グラン・フューリーはアンドリュー・タイダー&ジェフ・グリーンスパンを、イエス・メンはNot an Alternativeを、といった具合だ。

このような増殖形展示方法のため、第1ラウンドでは会場に空きスペースが目立ち、このやり方は本当に意味があるのかという疑問も出ている。とはいえ、SEAの系譜と現在の展開を知るうえで、(完成形を)ぜひ見たい展覧会だ。

(秋葉美知子)