英国アーツカウンシルは、芸術文化のクオリティを数値で評価しようとしている
「ソーシャリー・エンゲイジド・アートの芸術的クオリティは誰が評価すべきか?」という問いに、ポートランド州立大学のハレル・フレッチャー教授は次のように答えてくれた。「私は第一に、参加者とそのプロジェクトに直接関係している人たちの見方を大切にしている。もちろん、より広いアートワールドから関心を得ることはよいことだし、ファンドレイジングなどの役に立つだろうが、トラディショナルな美術評論には私はあまり関心がない。それよりも、私と共に活動してきた人々が、ともに作り上げたアートワークに満足することのほうが大切だ。そこには、ミュージアム・コンテクストではない美学があるはずだ」
アートのクオリティをどのように評価するかは、長年議論されてきた課題だ。成果主義のイギリスでは、ブレア政権期には芸術文化に対する公的支援のよりどころとして、いかに教育や社会正義に貢献したかが問われ、その後、“卓越性(エクセレンス)”が重視されるようになり、その評価は見識ある専門家に委ねられた。さらに今、英国アーツカウンシル(ACE)は、観客の見方も含めて、アートのクオリティを数値で評価する手法(コンピュータ-・ソフト)を開発。ACEから年間25万ポンド(約3,200万円)以上の補助金を受給しているメジャーな芸術文化組織(National Portfolio OrganisationsとMajor Partner Museums)に対して、“Quality Metrics”と名付けたこの評価手法の活用を義務化しようとしている。演劇や音楽の公演や美術館の展覧会などの個々のプロダクションについて、12の評価項目を設定。観客評価、同業者の相互評価(peer review)、自己評価の3種をデジタルプラットフォームで実施し、比較分析するというものだ。
その評価項目は、
①コンセプト:面白いアイディアだった
②プレゼンテーション:うまく作られ、発表されていた
③独自性:これまでに経験したことのないものだった
④挑戦:示唆に富む(刺激的な)ものだった
⑤魅了:興味を引かれ、夢中になった
⑥感激:このようなものにもう一度来たい
⑦地域的インパクト:ここでそれが起こっていることが重要だ
⑧関連性(relevance):私たちが生きている世界に関係している
⑨厳密性(rigour):じっくり考え、しっかりまとめられている
※以下はpeer reviewと自己評価のみの項目
⑩オリジナリティ:革新的だった
⑪冒険(risk):アーティスト/キュレーターは明らかに挑戦していた
⑫卓越性:これまで見た中で最も優れた事例の一つだ
これらのステートメントに対し、回答者は、タブレット・パソコン上の「非常にそう思う」から「全くそう思わない」までのスケールに、スライドバーで入力する。一般的な五択アンケートではないので、微妙なさじ加減が可能だ。集まったデータは瞬時に集計され、フィードバックされる。
IT時代のこの数量評価が報道されるや、批判や懸念、「そんな馬鹿な」「冗談でしょ」といったコメントがネット上にあふれた。そもそも芸術的クオリティを計測できるのか、ということから、オーウェル流の監視システムだ、成績表をつくって補助金支給の判断基準にするのではないか、こんな質問では包括的すぎて意味がない、同業者間の相互評価といってもお互いに結託して褒め合いに終始するのではないか……目的から手法まで、さまざまな疑問が出ている。ともかく来年4月からの導入結果に注目したい。
参考記事:
http://www.artsprofessional.co.uk/news/arts-council-impose-quantitative-measures-arts-quality
https://www.theguardian.com/culture/2016/oct/04/quality-metrics-arts-council-england-funding
(秋葉美知子)
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