G.U.L.F.のゲリラ・プロジェクション

4月27日の夜、ニューヨーク、グッゲンハイム美術館の外壁にサプライジングな文字と画像が投影された。“ULTRA LUXURY ART/ULTRA LOW WAGES” “EVERY DAY IS MAY DAY” “1%”、そしてグッゲンハイム財団の理事たちの顔と名前が次々に現れ、“Tou Broke Trust”“Bad Move!”。

 

これはアーティスト-アクティビスト集団Global Ultra Luxury Faction(G.U.L.F.)と、Illuminatorによるゲリラ・プロジェクションだった。Illuminatorは、オキュパイ・ウォールストリートの運動でベライゾンビルに「99% Bat Signal」を投影したアーティスト・コレクティブである。彼らはさらに、理事会議長の住むパークアベニューのコンドミニアム前に移動し、その外壁に同じプロジェクションを行った。

アラブ首長国連邦のアブダビは、芸術と文化の楽園としてサディヤット島の大規模開発を進めていて、周辺国から多くの移民労働者を受け入れている。しかし、過大な就職あっせん料、低賃金、劣悪な居住環境、転職・離職の制限、組合活動の禁止など、搾取と人権侵害が問題になっている。そのサディヤット島にアブダビ館の建設を計画しているグッゲンハイムに対し、移民労働問題に主体的に取り組むよう求めて、アーティストやライターが2011年に立ち上げた団体がガルフ・レイバー(正式名称はGulf Labor Coalition)である。その分派グループのG.U.L.F.は、問題を可視化するために、Liberate Tateにも似た抗議パフォーマンスを行ってきた。グッゲンハイム美術館のアトリウムの床に“Meet Workers’ Demands Now”と書いた巨大なパラシュートを広げたり、2015年のヴェネツィア・ビエンナーレでペギー・グッゲンハイム・コレクションのエントランスを占拠したり…

グッゲンハイムとガルフ・レイバーは6年にわたって移民労働者の権利と適切な労働条件について交渉を続けてきたのだが、この4月16日にグッゲンハイム側が「ガルフ・レイバーの要求はアート・インスティチューションの立場でどうこうできるものではなく、これ以上話し合っても生産的でない」と、対話の打ち切りを通告してきた。このプロジェクションはそれに対するガルフ・レイバーからの返答だった。

どちらにも言い分があるようだが、この対立に失望しているのが、同美術館で4月29日から始まった展覧会《But a Storm Is Blowing from Paradise: Contemporary Art of the Middle East and North Africa》で作品が展示されているアーティストたちだ。彼らはグッゲンハイム・アブダビに期待しているからこそ、美術館にはガルフ・レイバーとの対話を継続してほしいというステートメントを即座に出した。「私たちは対話こそ最も生産的な方法だと信じる」と。

今後の成り行きが気になるが、一連の出来事をネット検索していて気づいたのは、このゲリラ・プロジェクションのニュースを報道しているのはアート系のサイトがほとんどで、メジャーなメディアは無視したらしいということ。ニューヨークタイムズも「交渉打ち切り」の記事だけだった。メジャーなメディアも「1%」の側というわけか?

詳しいレポートと画像は、ハイパーアレジックを参照されたい。

(秋葉美知子)