社会正義とアート

差別、貧困・格差、暴力や抑圧がなくならない現実世界。アートを触媒に社会正義(social justice)を前進させようとするアーティストが世界各地で活動している。

ニューヨークのマンハッタンにあるニュースクール大学のヴェラ・リスト芸術・政治学センターは、2012年に「Vera List Center Prize for Art and Politics」を創設し、社会正義の前進にコミットするアーティストを世界的視野で選び、2年に一度賞を贈っている(15,000ドルの賞金とプロジェクト支援を含む)。2012年の第1回は、シカゴでドーチェスター・プロジェクトを展開しているシアスター・ゲイツ、2014年の第2回は、シリアを拠点に活動する独学で匿名の映像アーティスト集団アブナダラ(Abounaddara)が選ばれた。アブナダラは、2011年からシリアの一般の人々のありのままの姿をとらえる短編ドキュメンタリー映像を自力で制作し、週に1回のペースで動画共有サイトに投稿。非常事態にあるシリアをオルタナティブなイメージで伝えている。

社会正義とアートをテーマとする書籍の出版も相次いでいる。最近出版された3冊、ヴェラ・リスト・センターが第1回の授賞と連動して出版した『Entry Points:The Vera List Center Field Guide on Art and Social Justice No. 1』、ポスト・オキュパイ・プロジェクトのオーガナイザーの一人でもあるイェーツ・マッキー著『Strike Art:Contemporary Art and the Post-Occupy Condition』、SEAに特化した支援を行っているNPO「ア・ブレイド・オブ・グラス」がその助成プログラムと連動して出版した『Future Imperfect』を素材に、4月24日(日)、ブルックリンのスマック・メロン・ギャラリーで、著者や編者によるパネル・ディスカッションが行われた。Facebookにアップされた記録画像を見ると、ゲストのトークの後、参加者がテーマ別のグループに分かれて討論を行ったようだ。

practice- dissemination -dicussion―ソーシャル・チェンジには、こういったサイクルが重要なのだと思う。

(秋葉美知子)