オペラ界もSEAに接近?
米国のウェブ・ジャーナル「NEXT CITY」に、「今日的社会課題にエンゲイジすることは、オペラを救えるか?」と題する興味深い記事があった。オペラというと、堅苦しく、贅沢で、エリート好みの芸術様式というイメージがあり、近年、オペラ公演はチケット販売がだんだん難しくなっている。アメリカ3大オペラ・ハウスの一つ、シカゴのリリック・オペラでも、経営側がオーケストラ団員に対して、人員の削減、給与減額、公演期間の短縮などを求めたのに対し、楽団員たちは10月9日から5日間ストライキを行った。交渉の結果、いくつかの合意のもとでストライキは終結したが、根本的な問題は依然として残っている。
そんな状況のなか、オペラの制作者側が、よりカジュアルな舞台設定で、ソーシャリー・エンゲイジド・オペラに挑戦しているという。その事例としてあげられているのが、ニューヨークの建築家と作曲家のコラボレーション「The Mile-Long Opera」と、カリフォルニア大学サンディエゴ校のグループによる室内オペラ「Inheritance」だ。
「The Mile-Long Opera」は、今では観光名所にもなっているマンハッタンの1.45マイルにわたる高架型都市公園「ハイライン」の上に、市内各地区の合唱団から参加した1,000人の歌手が並んで、ニューヨーカーの生活を歌い、語るというパフォーマンス。歌詞と語りは、さまざまな職業のニューヨーカー数百人に対する「あなたにとっての午後7時の意味は?」というインタビューをもとに書かれたもの。10月3日から8日まで、毎晩7時から行われたこの屋外オペラ、約15,000人のオーディエンス(無料・予約制)が来場し、歌手たちの間を歩きながら歌と語りを聞いたという。
「Inheritance」は、銃による暴力というアメリカ社会で深刻化するテーマを扱っている。ウィンチェスター銃のビジネスで築いた夫の財産を相続した未亡人、サラ・ウィンチェスターが、迷宮のような自邸で、その銃によって殺された人々の霊に呪われ続けたという実話に基づき、全米で頻発する銃乱射事件と重ね合わせる新作オペラだ。10月24日から27日に、UCサンディエゴのExperimental Theater of the Conrad Prebys Music Centerで初演された。公演後にアフタートークなどのイベントは予定されていなかったにもかかわらず、観客は1時間以上その場に残って話し合っていたという。
オペラを公共の場に開いたり、社会問題に切り込むこのような試みは、保守的なオペラ界に、あるいは混迷する社会にどんな影響を与えるだろうか。
2018.11.22(秋葉美知子)
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