素手のふるまい アートがさぐる<未知の社会性>

鷲田清一
2016

素手のふるまいアートとノン・アート、作品と出来事の境界がぼやけ、アートがますます《液状化》する状況のなか、モードの研究で知られる哲学者、鷲田清一が、「アートはなぜ、とりたててアートに関心があるわけでもない人びとまで巻き込んで、そこにある出来事を出来させる力があるのか。そこにどのような可能性が潜んでいるのか」を論考する一冊。小森はるか/瀬尾夏美、志賀理江子、川俣正など、社会の<すきま>をこじ開けようとするアーティストの活動や言葉を追いながら、アートと社会の錯綜した関係性を読み解いている。「アートが社会的に何も役に立たないことにおいてのみ役に立つ」という川俣の言葉が一つのキーフレーズとして何度も登場する。ここで、考えさせられるのが「社会」という言葉の解釈である。社会問題、社会変革、社会貢献等々、私たちは社会をすでに存在するものとしてとらえがちだが、鷲田は、社会を「存在」ではなく「生成」という相において見る、社会の制度ではなく、社会を駆動しているもの、つまりは「社会形成力」の視点から見ることが必要だという。その駆動のきっかけを生み、コンテクストを編み、育てるものとしてのアートに期待をこめた評論である。