現代美術史:欧米、日本、トランスナショナル

山本浩貴
2019

タイトルを見ると、現代美術もすでに歴史の枠組みの中で語られるようになったのかと思う。本書は、「現代美術(コンテンポラリー・アート)」(第2次世界大戦後の美術)が、変化する社会や人々との新しい、多様な関わりを通して概念を拡張し、手法を開拓し、越境化してきた流れに注目して、解説、位置づけをしている。したがって、ポリティカル・アート、アート・アクティビズム、ソーシャリー・エンゲイジド・アートに関連する内容に多くの紙幅がさかれている。「等閑視」「周縁(化)」という言葉が頻出するように、大文字のアートからはずれた実践から今日的意味を丁寧に拾っている。特に、「東アジア現代美術と植民地主義の遺産」に一章を充て、在日コリアンの問題にも触れていることに注目したい。しかし、取り上げたいアーティストやキーワードが多すぎたためか、全体的に、サマリーのコンピレーションといった印象を受け、ああもっとここは掘り下げて欲しいと思うトピックも多い。逆にこれをレジュメとして、よりテーマを深める講義やディスカッションに活用したり、論文テーマを探している学生に読ませて関心を喚起するといいかもしれない。著者は、香港理工大学でポスドク研究員をしている研究者・美術家。本サイトの「SEAプログ」に「ヒストリオグラファーとしてのアーティスト?」と題する論考を寄稿していただいている。