Propaganda Art in 21st Century

Jonas Staal
2019

プロパガンダとは、特定の思想によって個人や集団に影響を与え、その行動を意図した方向へ仕向けようとする宣伝活動の総称である。特に、政治的意図を持った宣伝活動をさすことが多く、旧ソ連の共産主義プロパガンダやナチス・ドイツのプロパガンダなど、独裁体制と結びついた宣伝活動が思い浮かぶ。その手段として絵画、彫刻、文学、映画、音楽など芸術表現が広く用いられたこともよく知られている。しかしプロパガンダは決して過去の、全体主義国家のものではない。現代でも、たとえば米国の共和党右派は「テロとの戦い」を正当化するためにプロパガンダ映画をつくっている。しかし本書では、プロパガンダ・アートの概念を、単に特定の政治思想を主張するものにとどまらず、「ポスト真実」時代において、新しい別の世界を構築しようとする大衆運動(たとえばオキュパイ・ムーブメントや難民支援運動)にまで広げている。著者はこれを、チョムスキーとハーマンによる「プロパガンダ・モデル」の5項目の“Filters”を5項目の“Demandsに”逆転させた独自のモデル(注)に基づいて論じ、解放のプロパガンダ(emancipatory propaganda)を提唱する。著者のヨナス・スタールは、プロパガンダ・アーティストを自称するオランダの美術家。プロパガンダ研究でライデン大学より博士号を取得している。

 

(注)左がチョムスキーとハーマンのFilters、右がスタールのDemands
1 Monopolization(大手メディアによる独占)→Democratization(民主化)
2 Corporate Advertising(企業広告)→Grassroot Mobilization(草の根の結集)
3 Source Control(情報源のコントロール)→Public Knowledge(公知)
4 Flask(デマ情報)→Transparency(透明性)
5 Anti-Communism(反共主義=反テロリズム)→Collectivity(集団性)