ソーシャリー・エンゲイジド・アート展 会場展示プロジェクト(日本のアーティスト)
アート&ソサイエティ研究センターの主催で、2017年2月18日~3月5日に開催した「ソーシャリー・エンゲイジド・アート展」では、海外の代表的プロジェクトを紹介するとともに、社会への関わりを強く意識した日本人若手アーティストの活動に注目。アーツ千代田3331で、5つのプロジェクトを展示紹介した。
ふたりのユニフォーム(若木くるみ Kurumi Wakaki)2016
若木は「走る」というシンプルな行為をきっかけに様々な作品を制作してきた。本作は、これまでマラソン大会への参加で何度も訪れた台湾で、2016年2月に起こった地震災害の復興に向け、友人の武内明子とともにメッセージを描き込んだユニフォームを着て、南横ウルトラマラソンに参加したドキュメンタリー。記録映像とともに実際に着用したユニフォームを展示する。アーティストという客観的な立場を外れ、国境を超えて他者の集団に直接介入する行為は、面白半分に見えながらも、安易な絆づくりのプロセスに対抗するような力強さが読み取れる。
漕港河会議(山田健二 Kenji Yamada)2016
近年大規模な開発が続く上海内陸の古都「朱家角」。山田は、開発のために強制退去を余儀なくされた市民や、開発後に誘致され移住した新しい市民を集め、この地域を流れる漕港河の船上での議論を行い、その様子を監視カメラで撮影した。1921年に近隣の南湖の船上で行われた中国共産党第一会議「南湖会議」の形式を模している。新たに設置した監視カメラで自分たち自身をモニタリングすることで、政府がソーシャル・メディアなどを通して国民を監視する行為を逆手に取り、歴史の書き手と深く関わる国家や政府などの権力構造に対し、市民主導の権力を越えた関係性の構築を試みる。権力構造の変容や社会転換の契機を連続的に起こすことを意図した映像作品。
2021 (藤元明 Akira Fujimoto)2016
藤元は、人間には制御できない社会や自然の現象をモチーフに、絵画・オブジェクト・映像・インスタレーションなど様々な手法で展示やプロジェクトを展開する。本展では、戦後の高度成長期に開催された1964年の東京オリンピックから50年以上を経て、再びオリンピックを3年後に控え、多くの日本人が「2020年」というシンボルに向かって猪突猛進するなか、私たちが目を向けるべきその先を、簡潔なアイコンによって提示し、人々の意識の変容を促す。アーツ千代田3331の正面デッキに巨大な2021の文字をインスタレーション。会場内では、アーティストやプランナーに「それぞれの2021」についてインタビューしたビデオを上映した。
CONSENSUS(高川和也 Kazuya Takagawa)2014
高川は近年、膨大な情報が結合/交差する空間としての自己をモチーフに、インタビューやポートレイトの制作を行っている。《CONSENSUS》 は、「合意」を絶対条件に、集団意思決定を行うためのワークショップである。未成年の男女4人を被験者として行われた本企画では、4人の真ん中に置かれた、匿名者の「排泄物」を誰かが持って帰らねばならないというミッションが与えられ、「全員の意見が完全に一致するまで話し合うこと」、「与えられた時間内に必ず1人を選出すること」の2点を条件に議論が行われる。本展では、この話し合いの過程と結果を記録したビデオを上映した。
より若い者がより歳をとった者を教育する(丹羽良徳 Yoshinori Niwa)2015-16
「教師と学生という固定された立場をあえて、しかも明確に逆転させた授業を実施することによって、普段はひっくり返ることのない学校教育の現場でそれぞれ立場を変更し、その苦悩の逆転劇のなかに、本質的な『教育』の可能性と逃れられないジレンマを参加者に与え、人が人を教育することの不可能性を考える」というプランを教育委員会へ提出。その結果は、ことごとく不許可となったが、その失敗に終わる交渉の過程を追いつつ、結果として交渉の場にはいなかった高校生たちが、架空の交渉の続きを演劇として実演する。その記録ビデオを上映した。
最近のコメント