ソーシャリー・エンゲイジド・アートの系譜・理論・実践―芸術の社会的転回をめぐって

アート&ソサイエティ研究センターSEA研究会は、「リビング・アズ・フォーム」展(巡回版)の開催(2014)、パブロ・エルゲラの著書を翻訳した『ソーシャリー・エンゲイジド・アート入門』の出版(2015)、日本で初めてSEAをテーマとした展覧会「ソーシャリー・エンゲイジド・アート展―社会を動かすアートの新潮流」の開催(2017)など、SEAを紹介する一連の活動を重ねるなかで、日本でもこういった芸術実践に対する関心が高まっていることを実感することができました。しかし、まだまだその歴史・理論・実践に関する情報は未整理で、多様であいまいな理解がなされている現状があります。

言葉が一人歩きする前に、SEAが生まれてきた背景や理論、実際のアーティストの取り組みをより深く理解し、新たな議論の場をつくる必要があるのではないか、そんな思いで企画したのが本書です。『入門』と同じフィルムアート社に提案したところ、快くを受け入れてもらえ、2018年7月に刊行することができました。

なかでも私たちが本書の核にしたいと考えたのは、第1章で紹介するトム・フィンケルパール(現在ニューヨーク市文化局長)の「.社会的協同(Social Cooperation)というアート─アメリカにおけるフレームワーク」で、彼の2015年の著書『What We Made』の、非常に読み応えのあるイントロダクションを邦訳したものです。米国においてSEAのような芸術実践が誕生した背景を1960年代から概観し、この分野の基礎知識を提供してくれるエッセイです。

このほか、米国でフェミニズムがSEAの誕生に及ぼした影響を論じるカリィ・コンテ、SEAを肯定的に理論化する研究者、グラント・ケスター、芸術の社会的転回の理論的動向を初学者向けに解説する星野太、ビショップとケスターの対立の本質を鋭く論じるジャスティン・ジェスティのテキストを収録。また、実践者の高山明(演出家)と藤井光(美術家・映像作家)のエッセイは、アーティストが社会問題と関わるときのさまざまな課題・問題を提起してくれます。

巻末には、戦後の美術と社会の動向をソーシャリー・エンゲイジド・アートに関連づけてまとめた年表を20ページにわたって収録。議論や研究の資料として活用していただくことを意図しています。センターのカラーページには、2017年の「ソーシャリー・エンゲイジド・アート展」に参加し、東京でプロジェクトを実施したアーティストたちをフィーチャー、彼らの活動を基礎づけるステートメントも掲載しています。