選挙とアート
史上最悪の泥仕合と評された先日の米国大統領選挙。これだけ激しい選挙戦が繰り広げられたからには有権者の投票率も高かっただろうと思うが、意外にそれほどでもなく、57.6%だったという(United States Elections Projectの推計による )。米国では18歳以上の米国籍者すべてに選挙権があるが、本人が自己申告で選挙人登録をしなければ実際に投票することはできない。そして有権者の23%がさまざまな理由で選挙人登録をしていない。「選挙に行こう」というキャンペーンやサポートの重要性は日本だけではないのだ。
アメリカのアーティストやアート組織は日本に比べてはるかにポリティカルな活動に積極的だが、今回の大統領選挙と連邦議会選挙においても、市民の政治参加を促進するためのさまざまな活動を全米各地で行っていた。(参考記事:Animating Democracy November 2016 E-News)
フィラデルフィアのパブリック・アート・プロジェクト「Next Stop: Democracy!」は、投票所の場所が分かりにくく、サインも目立たないことが投票率に影響しているとして、60人のアーティストに“Vote Here/Vote Aqui”と英語とスペイン語で書いた大型看板の制作を依頼、投票所の前に掲げた。カリフォルニア州では、コーナーストーン・シアター・カンパニーやイエルバ・ブエナ・アート・センターなど4つのアート組織が自分たちの建物を投票所として提供。ノースキャロライナ州ウィンストン・セーラムでは、アーツカウンシルが野外パーティを開いて、若者に選挙人登録を呼びかけた。
「米国芸術文化省(USDAC)」と名乗るアーティストや文化関係者たちの草の根アクション・ネットワークは、特定の候補者のために選挙資金を集めて支援活動を行う団体「スーパーPAC(Political Action Committee)」をもじった「USDAC スーパー P・A・C(Participatory Arts Coalition)」というプロジェクトを立ち上げ、市民レベルで民主主義を実践するさまざまな参加型イベントの事例とハウツーを紹介している。たとえば、芝生の前庭に、支持する候補者の名前ではなく自分の信じる価値観(Respect、Effort、Loveなど)を書いたサインを立てる“Lawncare”、夜の公道を使って映画上映とディスカッションを行う“Pop-Up Screening”、メキシコの伝統的切り絵の手法でメッセージを表現する“Papel Picado Now”、大型の木箱で作った可動式ステージの上で、誰でも即席の演説ができる“Make America Crate”(トランプの“Make America Great”のもじり?)などなど。こういった9のアイディアが、ダウンロードできるツールキットにまとめられ、誰でもどこでも自由に再現、応用できるようになっている。
(秋葉美知子)
最近のコメント