ターナー賞2021は、北アイルランドのアクティビスト・アーティストコレクティブが受賞

1984年にテート・ギャラリーによって創設され、50歳以下の英国人もしくは英国在住の美術家に対して贈られる「ターナー賞(Turner Prize)」は、現代美術の世界ではもっとも重要な賞のひとつとして、毎年注目されている。

2021年の同賞は、ファイナリストに選ばれた5組が全て、地域のコミュニティと密接かつ継続的に活動し、アートを通じてソーシャル・チェンジを目指すアーティストコレクティブだということが話題となっていた。審査の結果、北アイルランドのベルファストを拠点とするアレイ・コレクティブ(Array Collective)が、「シビン」と呼ばれる無許可のパブを模した空間にさまざまな抗議運動のバナーを張りめぐらしたインスタレーションで受賞したことは、すでにいろいろなメディアで紹介されているのでご存じの方も多いだろう。

ここでは、彼らが受賞直後にFacebookに投稿したステートメントを紹介したい。

 

アレイ・コレクティブは、北アイルランドのアートとアクティビズムのエコロジーに光を当てる機会を与えられたことに、とても感謝しています。ノミネートされてからしばらくは、信じられない気持ちでいっぱいでした。しかし、世界的なパンデミックの中、アレイ・コレクティブとベルファストの仲間たちが、お互いに有意義で思慮深いことをするために、新たな一歩を踏み出す機会を得たことはとても幸運でした。
私たちが作品をつくり、私たちのアートが社会運動を後押しするのは、自分たちがより大きなものの一部になれば、集団的な利益のために問題を先に進められることを、目の当たりにしてきたからです。しかし私たちは知っています。私たちが重要な成果をあげたとしても、まだ周縁に取り残されている人々がいることを。

妊娠中絶は非犯罪化されましたが、それを受けることは北アイルランド議会によっていまだにブロックされています。HIV治療やトランスジェンダーのヘルスケア、LGBTの包摂、同意に基づいた性と人間関係の教育へのアクセスは、まだまだ惨めなものです。コンバージョン・セラピー[同性愛者やトランスジェンダーに対して、異性愛者に“矯正”または“転換”させるために行う一連の行為]は直ちに禁止する必要があります。
プロテスタントやカトリックの信条に縛られない学校の入学定員は何万人も不足しており、国民はより多くの統合教育[障害児と健常児を同じ場所で教育すること]を望んでいるのに、国会は実現しようとしません。
アイルランド語は、奪われたアイデンティティの再確立の中心にあり、今すぐ行動する必要があります。
紛争を経験した世代のトラウマは自殺につながり、自殺率は英国の他の地域より25%以上も高くなっています。それでもメンタルヘルスに対する助成金は最低です。
上級大臣たちは、気候保護のためのグリーンな未来政策に耳を塞ぎ、議会が開かれない丸3年の混乱にもかかわらず、私たちが賛成しなかったBrexitのために、[通商]合意を撤回する脅威が去っていません。

それでも、私たちは粘り強く、誇りをもって集い、互いに高め合いながら、誰もが直面するかもしれない障壁を壊そうとしているのです。私たちは、厳しい社会情勢にもかかわらず、ベルファストで行われている仕事とケアをとても誇りに思っています。ですから、私たちの小さな「シビン」は、愚か者とトラブルメーカーの仲間たちためのオマージュであり、休憩所です。私たちは皆さんに敬意を表します

 

ボリス・グロイスの言うように、現代美術の特徴が「国際性と普遍主義(internationalism and universalism)」だとすれば、アレイ・コレクティブはじめ最終選考に残った5組は、それとは真逆のロケーション・スペシフィック、イシュー・オリエンテッドな実践によって、現代美術の今を象徴するターナー賞を受賞した。この結果に対して、美術評論界から「ファイナリスト選定の段階から、今年度のターナー賞は、その“価値”リストの中で“美的達成” をかなり軽視していた」「アレイのインスタレーションは芝居のない舞台装置のようで、芸術的な意味は薄い」などという声があがったのも当然かもしれない。しかし、アート作品はさまざまな価値を持ち、その評価は「美学」の視点のみでなされるべきではない……そういった考え方は、ソーシャリー・エンゲイジド・アートが世界のさまざまなコミュニティで実践され、インスティチューションに認知されるとともに、アートワールドでも主流になってきたように思う(たぶんテートはその先導者だろう)。受賞の喜びより、自分たちの立ち位置を明らかにするアレイ・コレクティブのステートメントからは、改めてアートの意味や在り方を考えさせられる。

2022.2.5(秋葉美知子)