グレゴリー・ショレット教授のゼミナール・サイトはSEA研究資料の宝庫

アメリカにはソーシャリー・エンゲイジド・アート(あるいはソーシャル・プラクティス)を学べる大学のプログラムが数多くある。ニューヨーク市立大学クイーンズ校とクイーンズ美術館とのパートナーシップによって2012年に創設されたMFAプログラム「ソーシャル・プラクティス・クイーンズ(SPQ)」も代表的な一つだ。SPQの創設者の一人で、現在も教鞭を執っているグレゴリー・ショレット教授はアーティスト/アクティビストであり、著書や講演も多く、SEAやアート・アクティビズムの分野の論客の一人として知られている。
そのショレット教授は、現在、2021年秋学期の「History & Theory of Socially Engaged Art」と題するゼミを開講中だ。
ゼミの目的は、次のように記されている。

最近、ますます多くのアーティスト、キュレーター、評論家が、新しいタイプの参加型ソーシャリー・エンゲイジド・アート制作に力を注いでいる。これまで周縁化されていたものが、今では主流となり、美術館やビエンナーレはもとより、ストリートなどの公共空間でも注目されている。
このセミナーの目的は、ソーシャル・プラクティス・アートの理論と実践を調査研究し、批評し、歴史化することである。そこには、パフォーマンス、都市研究、環境科学、その他の社会活動関連の学問分野の中で、あるいはそれらの分野を越えて活動する、アクティビスト、インターベンショニスト、パブリック/参加型/コミュニティベースのアートも含まれる。
このクラスでは、次のような問いに焦点を当てる。

なぜソーシャル・プラクティス・アートの歴史と理論を理解することが有用であり、また必要なのか? ソーシャル・プラクティス・アートの歴史的ルーツはどこにあるのか? それは美術史の中にあるのか、外にあるのか、あるいは2つの領域をまたぐものなのか? 「ソーシャル」とは何か? ますます私有化が進む社会において、どのように公共圏の概念を定義し、その中で行動するのか? また、新進アーティストによるソーシャリー・エンゲイジド・アートへの関心の高まりに対して、メインストリームとオルタナティブの両タイプの文化機関はどのように対応しているのか?

講義、文献読解、ディスカッション、研究発表を通して、社会に関与する視覚文化とアーティストの役割の変化を、歴史的、イデオロギー的、批評的な枠組みの中で位置づける。可能であれば、ゲストスピーカーとの対話やオフサイト訪問も実施する。

SEAを学ぼうとする者にとってはぜひ受けてみたい授業だが、このショレット・ゼミナールは誰でもアクセスできるサイトが設けられており、ここまで公開していいのかと思えるほど情報満載だ。シラバスはもちろん、そこにあげられた必読文献・参考文献はpdfファイルまたはウェブページへのリンクが記され、学生は図書館で探したり、ネット検索する必要はない。たとえば、ルーシー・リパードの有名な「Six years: the dematerialization of the art object from 1966 to 1972」が本をスキャンしたpdfで読める。また、シラバスの8月31日にあるSome origin stories about socially engaged artをクリックすると、ショレット教授によるプレゼンテーションのスライド画面(113ページ)を閲覧できる。
授業の一環として、ゲストスピーカーとのセッションが行われると、その動画が数日後にアップされる。9月27日にクイーンズ美術館で行われた1時間にわたるスザンヌ・レイシーと学生とのディスカッションも、早速シェアされていた。
ページをスクロールしての最後に出てくる「Additional (Optional) Readings」の「Socially Engaged Art Reader」をクリックすると、なんと571ページに及ぶ参考資料のコンピレーションがpdfで現れ、これはダウンロードするしかないと思わせられる。

過去のゼミのアーカイブもあり、興味深い資料が山ほど埋蔵されている。この森に分け入ると出られなくなるようなサイトだ。

2021.10.15(秋葉美知子)