ABOGのデホラ・フィッシャー、NYのロックダウン下で自らの思いを述べる

artnetのFacebookページより

このブログでたびたび紹介しているSEA支援に特化したアートNPO、ア・ブレイド・オブ・グラス(ABOG)の創立者兼ディレクターのデボラ・フィッシャーが、コロナ危機で組織の予算が蒸発していく中、社会的価値を追求する非営利文化機関はどのようにして活動を継続するか、「artnet news」のOpinion欄で前向きに持論を述べている。日本でのSEAの可能性を考える上でも参考になる内容なので、以下、その一部を引用したい。

 

  • 私たちが大切にするアート、そしてそれをどのように評価するかは、私たちを取り巻く世界とともに変化する必要があります。
  • すでに私たちはある種のアートを過大に評価しているとも言えますが(ブロックバスター展覧会とかコレクターが買っている記念品とか)、私は、今この時期が単に文化的投資を増加させるのではなく、再調整する機会を提供していると思います。私たちは何でも好きなものを大切にすることができます。私たちは、ジェフ・クーンズの彫刻やそれを認めるマーケットの力を、ミゲル・ルチアーノのようなアーティストがイーストハーレムで長年続けている取り組みよりも高く評価する必要はありません。
  • 私たちは、生きたい人生をサポートするようなやり方で、芸術文化の評価を決定する力を持っています。
  • 今この時期から生まれる作品の成功は、マーケットでの価値ではなく、コミュニティの文脈で人間のニーズを満たすアートを高く評価する私たちの新たな能力にかかっています。私たちはアートの鑑賞者や支援者として、この機会を利用すべきです。
  • この新しいパラダイムでは、たぶん、アートはより専門性が低くなるでしょう。しかし、それは、より今日的意味を持ち、浸透性があり、参加型になることによって野望の感覚を持ち続けるでしょう。芸術機関(アート・インスティチューション)の成功は、アートから得られる、つながりや参加の感情の価値をサポートし、増幅することにかかってくると思います。
  • ABOGは、約10年間、自分たちのワークを生活と一体化するために、意図的で熟考した選択を行っているアーティストたちに焦点を当ててきました。私たちは、アーティストがコミュニティと協働するときに何が可能かについて、その最も野心的な事例を見出しています。そして、アーティストが普通の人々とテーブルを囲みながら、壮大で夢のようなものを共同制作できることに驚かされ続けています。たとえば、ローリー・ジョー・レイノルズが最厳戒刑務所を閉鎖したプロジェクトや、LAPDがロサンゼルスのスキッド・ロウで7,000戸の低所得層向け住宅を確保するプロジェクト、ドレッド・スコットが何千人もの参加者を得て行った奴隷の武装蜂起の再現といった。
  • このアートはパワフルです。なぜなら、参加者と鑑賞者に世界における自身の力と行動を考えるように促すから。
  • 私たちが尊重するアートの価値が根本的に社会的なものである場合、最も強力な資金調達戦略は、その(アートの)社会的価値を明確に示すことからもたらされます。コレクターが買うことができないアートに資金を調達するために、他に方法があるでしょうか?
  • アートが公共のリソースとして位置付けられているなら、広範囲で新規の資金的支援を得るのは、従来言われているよりは簡単だと思います。
  • 具体的な社会的価値を持つアート・プロジェクトに対する支援の手は増えるでしょう。ABOGのフェローシップ・プロジェクトは、ニューヨーク市の保護観察局のような市の部局やデンバーのローズ・メディカル・センターのような医療機関からすでに支援を得ています。これらの支援はフィランソロピーではありませんし、芸術のための芸術に向けたものでもありません
  • 時が経つにつれ、以前は芸術の価値をサポートしたり理解してこなかった財団や政府などの資金提供源からの支援が増える可能性があります。
  • 現在の危機に直面して、私たちは皆、このアプローチを拡大する準備ができているかもしれません。私はコミュニティ主導のアートのための予算を約10年間調達してきました。他の人々に与える価値と影響を明確に示すことでそれを実現しています。誤解しないでください。このアプローチは直接取引ではないため、他のタイプの資金調達や制度構築よりもはるかに困難です。私は、刑務所やテキサス州の国境の町で起こっているプロジェクトへの関与を求めています。それらのプロジェクトは所有することができませんし、その恩恵は、出資者が決して会うことがないかもしれない人々に与えられるものです。
  • 私の組織において、最高の寄付者やリーダーは、アーティストたちの急進的な活動を本当に理解したいと思っています。彼らは挑戦されたいと望んでおり、芸術は彼らの人生と行動を変化させています。ドレッド・スコットによる奴隷の反乱の再現を目撃するための最近のドナー旅行で、私は参加した支援者たちの寛大さ、そして彼らがクールなスペクタクルを体験するだけでなく、戸惑いをこらえながらも、我々皆が責任を負わねばならない歴史を前向きに学ぼうとするのをありがたく思いました。このレベルの関与を求めることは難しいでしょうが、こういった人々はすでにアートを信頼し、評価し、挑戦的で、深く、社会的に重要と感じる方法でアートを楽しむことを渇望しています。
  • 私はもちろん、未来を心配しており、それはセクターとしての芸術に経済的打撃もたらすと思います。しかし、私たちはこの未来についてかなり長い間リハーサルをしていて、そこに豊富(なリソース)を見つけるためのツールを持っていると感じています。

2020.5.1(秋葉美知子)