「クリエイティブ・ピープル・アンド・プレイセス」事業にスザンヌ・レイシーも参加
英国の地域住民のアーツ参加率調査で、355自治体中下から15番目だったブラックバーンwithダーウェン、20番目のバーンリー、27番目のハインドバーン地区、62番目のペンドル地区は、イングランド北西部のペナイン・ランカシャー地域として、前投稿で紹介した「クリエイティブ・ピープル・アンド・プレイセス」事業の助成を受け、「スーパー・スロー・ウェイ」という共同事業体を創設し、さまざまなプロジェクトを実施している。「スーパー・スロー・ウェイは、ペナイン・ランカシャーにおける創造的レボリューションの火付け役となることを目指している。我々は、リーズ・リバプール運河沿いのコミュニティとともに、人々を地元の、英国内の、そして世界のアーティストと結びつけ、コラボレーションや新しいアイディアの探求、そして革新的手法による実験を可能にするプロジェクトを実施している」というマニフェストのもと、フェスティバルの開催、各地でのアーティスト・イン・レジデンス、リーズ・リバプール運河完成200年記念合唱曲の創作・公演、社会包摂や介護・福祉活動へのアーティスト参加など、その活動は多岐にわたっている。
そのひとつが、米国カリフォルニアを拠点とする、SEAの先駆者的アーティスト、スザンヌ・レイシーによるコミュニティ参加型プロジェクト《Shapes of Water, Sounds of Hope》だ。
19世紀半ばから1960年代まで、ペンドル地区では、綿紡織工場が経済活動の中心にあり、中東からの移民労働者を含む多様なバックグラウンドを持つ人々が働き、集う場だったが、2006年にブライヤーフィールドの工場が閉鎖されて、そういった交流の場がなくなり、地域のまとまりもなくなってしまった。
今年2月から始まったレイシーのプロジェクトは、コミュニティの歴史を振り返り、現在を見つめ、未来を展望するきっかけとして、廃工場の広々とした空間を舞台に住民参加のアート・イベントを作り上げようというもの。手段としたのが歌だった。かつての工場労働者やその家族はじめ地域の人々を招いたミーティングを重ねるとともに、ランカシャーに起源を持ちアメリカのアパラチア地方でも行われていた「シェイプ・ノート」という合唱法とイスラムの「スーフィー・チャンティンング」という詠唱法のレッスン、セッションを行い、10月1日、廃工場の一階フロアに500人を集めたヴォーカル・パフォーマンス&晩餐会でクライマックスを迎えた。このいかにもレイシーらしいスケールの大きなパフォーマンスに加えて、地域住民50人へのインタビュー収録も行われ、今後映画作品にまとめられるという。
「私は、文化を共有することですべての問題を克服できるなどと単純に考えてはいません」とレイシーは言う。「しかし、この経済的、社会的状況のもとで、地域の未来のために、社会的結束や市民参加を推進している人たちがいます。そして彼らの多くは、このプロジェクトを、現在進行中の自分たちの努力を補助的にサポートするものと受け止めていると思います」。これは、レイシーが手掛ける多くの地域プロジェクトに共通するポイントだろう。
参考記事:Suzanne Lacy’s Pioneering Community Art Project in England (BLOUIN ARTINFO)
パフォーマンスの様子:Super Slow WayのFacebook参照
(秋葉美知子)
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