クリエイティブ・タイムのナトー・トンプソンが語る米国のアートワールド

Hyperallergicウェブサイトより。photo: Alyssa Maloof

このブログでもたびたび紹介しているニューヨークのアートNPO、クリエイティブ・タイムのアーティスティック・ディレクター、ナトー・トンプソンが、この11月、昨年設立されたばかりの「フィラデルフィア・コンテンポラリー」(注)のアーティスティック・ディレクターに就任することが決まった。
さまざまなSEAプロジェクトのキュレーターを務めると同時に、アートと政治に関する論客の一人として知られるトンプソンに、ウェブ・ジャーナル「ハイパーアレジック」の編集長、フラグ・バータニアンが、米国(特にニューヨーク)のアートワールドとSEAの状況について興味深いインタビューをしている。
以下、「ハイパーアレジック」の記事から、シンプソンの発言をいくつかを要約して紹介しよう。

 

  • この10年間に、インスティチューションが(美術館やギャラリーだけでなく市の行政機関も)SEAやポリティカル・アートに関心を示すようになってきた。
  •  最近、チェルシーを歩いたら、カラ・ウォーカーの展覧会、トレバー・パグレンの展覧会、デューク・ライリーの展覧会が開かれていて、物事は確かに変わっていると思った。
  • プレイスメイキングについていうと、これまでは、ネオリベラリズムと手をつないだリチャード・フロリダの「クリエイティブ・クラス」モデルに対する批評が主だったが、ここ数年議論はかなり変化している。都市環境における文化的生産(cultural production)の役割について批評的に会話することはきわめて重要だ。ジェントリフィケーションをめぐる戦線は、今現在チャイナタウンで問題が起こっているように、アーティストの作品もいかに都市開発と結びついているかをじっくり考えるためのるつぼとなっている。
  •  アートワールドを形成している人々の大半は権力から閉め出されているということは覚えておくとよい。つまり、ほとんどのアーティストはメジャーなギャラリーで作品展示をしていないし、アートで生計を立ててはいない。しかし、アートワールドの中で、ネオリベラリズムから恩恵を受けている人がたくさんいることも事実だ。
  •  商業世界を見回せば、多くのSEAを見いだすことはないが、アメリカ任意の都市に出かけてアートプログラムの話を始めれば、非常に多くの人々が自分たちの地域で仕事をしていることがわかる。“Forget whether or not it’s great work, it’s work being done”
  •  SEAがニーズを満たそうとしているとは思わない。しかし、そのプラクティスの根底には興味深い意図がある。アーティストたちは、何かを言おうとしているとことと何かをやろうとしていることの間の緊張関係を解決したいと思っているのだ。
  • オキュパイ・ムーブメントがなければバーニー・サンダースは出てこなかっただろう。
  • アートのことを全く知らない市民がシアスター・ゲイツのことを話題にするのを聞くにつけ、彼は重要な人物だと思う。
  •  ウェブ2.0は、広範囲のアーティストや世界の芸術嗜好を紹介してきた。かつては、「ニューヨークタイムズ」「アートフォーラム」「ホイットニー・ビエンナーレ」のどこかで紹介されないと問題外だったが、今ではもうそんなことはない。
  • インスティチューションが、今のところ口先だけでも、コミュニティ・エンゲイジメントに関心を示している。次のステップは実際にやることだ。それはインスティチューションにとっても健全なことだと思う。これまで、アートと政治は(インスティチューションの)教育課を通して集約されてきた。それが突然、キュレーターたちが後ろを振り返ってみると、教育課が最も重要な仕事をしていると気づいたのだろう。
  •  私はフィラデルフィアに8年間住んでいる。フィラデルフィアには、市民意識が高く、想像力に富み、ワイルドなアーティストがたくさんいる。ハリーともにここで新しいタイプのインスティチューションをつくることにワクワクしている。

 

(注)ペンシルバニア美術アカデミーの前館長ハリー・ヒルブリックが、分野横断的ビジュアル・アートとパフォーマンス・アートのプラットフォームとして2016年に設立したNPO。現在は常設のスペースを持たず、市内各所で期間限定のイベントやインスタレーションを展開しているが、数年後には拠点となる建物を建設する予定だという。

(秋葉美知子)