地球温暖化に向き合うミュージアムの役割は?

国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は8月9日に発表した新しい報告書で、産業革命前と比べた世界の気温上昇が2021~40年に1.5度に達すると予測し、人間活動が温暖化に影響を与えていることは「疑う余地がない」と断定。熱波や豪雨、干ばつなど気候危機を回避するのは、我々の選択にかかっていると改めて確認している。

10月31日に始まるCOP26の開催地、英国グラスゴーのサイエンス・センターでは今、「Reimagining Museums for Climate Action」と題する国際デザイン・コンペで入選した8件のプロポーザルの展示が行われている(A&Sでは、建築家と景観デザインの専門家に呼びかけ、デザイン・コレクティブ「The Water Seeds-Sumida River Design Collective」を結成して、都市を流れる川をミュージアムに活用するプランで応募し、最終選考に残った)。このコンペ/展示のテーマは、What would it take for museums to become catalysts for radical climate action? ―ミュージアムが気候危機回避の行動(クライメート・アクション)の触媒となるには何が必要か? 気候変動という世界共通の危機に直面して、人々から信頼され、親しまれている機関であるミュージアムは、人々が正しい行動を選択するために積極的な役割を担うべきではないか、という考え方に基づいている。コンペ/展示の主催は、芸術・人文リサーチカウンシル(研究活動に対する英国の公的助成機関の一つ)で、民間からの支援は得ていない。

博物館に抗議するエクスティンクション・リベリオンの科学者 Extinction Rebellionのウェブサイトより

一方、時期を同じくしてロンドンの科学博物館では、「Our Future Planet」と題する無料の展覧会が、化石燃料の継続的使用を認めた上で、二酸化炭素を回収する技術によって温暖化を緩和する未来を提示している。メジャースポンサーについているのは大手石油会社のシェルである。さまざまな装置や製品が展示される中、ひときわ目を引くのが、アリゾナ州立大学のクラウス・ラックナー教授が開発した、樹皮のような紙の束を背の高い機械構造物に取り付けて大気中の二酸化炭素を吸収する「メカニカル・ツリー」だという。この展覧会は、5月の開始早々から問題視され、気候変動対策を求める環境団体「エクスティンクション・リベリオン」の科学者メンバーは、「SHELL OUT OF OUR MUSEUM」とプリントした白衣を着て、自分の体をケーブルでツリーにつなぎ、抗議行動を行った。さらに7月末、シェル社と科学博物館とのスポンサーシップ契約書に「博物館は スポンサーの信用や評判を落とすような行為をしてはならない」と規定されていたことが明らかになり、批判の声はより高まっている。ミュージアム側は、この規定はスポンサーシップ契約では一般的なもので、キュレーションに影響を与えることはないと言っているが、本当にそうだろうか。

ミュージアムは現実世界のさまざまな課題に深く関わり「文化変革のための能動的エージェント」に変身すべきだという考え方が、ミュージアム・コミュニティの間で広がりつつある現在(2019.9.25付ブログ参照)、スポンサー契約とミュージアムの役割との関係は、欧米ではますます論争・抗議の的となっている。

2021.8.16(秋葉美知子)