21世紀におけるミュージアムの役割とは? ICOM京都大会で新定義の採決が延期に

9月1日から7日まで、国際博物館会議(International Council of Museums 略称ICOM)の第25回大会が京都で開催され、「Museums as Cultural Hubs: The Future of Tradition(文化をつなぐミュージアム ―伝統を未来へ―)」をテーマに、120の国から4,600人が参加してさまざまな討議が行われた。なかでも今回最も注目されたのが、ミュージアムの新しい定義が提案されたことだった(ミュージアムの日本語訳は博物館だが、総合博物館、自然史・自然科学博物館、科学技術博物館、歴史博物館、美術館、文学館、動植物園など多様なタイプがあり、人によって特定のイメージで理解されている場合も多いと思うので、ここではミュージアムと記述する)。

本サイトの「参考文献」に紹介した『Museum Activism』で展開されているように、今「“ミュージアムの中立性”はもはや神話であり、不平等、不正義、地球環境の危機が深刻化するこの時代に、ミュージアムは(明確な目的に基づいて設立された“アイデンティティ・ミュージアム”だけでなく、すべてのミュージアムは)、現実世界のさまざまな課題に深く関わり「文化変革のための能動的エージェント」へ変身すべきだという考え方が、ミュージアム・コミュニティの間で広がりつつある。
ICOM京都大会での新しい定義の提案も、この動きに呼応するように、ミュージアムの社会的役割、人々とのエンゲイジメントを強調するものとなっていた。

現行のICOMによるミュージアムの定義は2007年に第22回大会で採択されたもので、以下のように非常にシンプルだ。

ミュージアムは、社会とその発展のために奉仕する、非営利で常設の、一般に公開される機関であり、教育、研究、楽しみを目的として、人類とその環境の有形および無形の遺産を取得、保存、調査、伝達、展示する。

今回、ICOM内の「ミュージアムの定義・展望・可能性委員会」が3年間にわたって検討した結果、文章化された新しい定義は、従来のものを大幅に改訂するものだった。

ミュージアムは、過去と未来について重要な意味を持つ対話のための、民主的、包摂的かつ多声的な空間である。ミュージアムは現在の紛争や課題を認識し、それらに取り組みつつ、社会の委託のもと、人工品や[動植物・鉱物などの]標本を保管し、将来の世代のために多様な記憶を守るとともに、すべての人々に遺産に対する平等な権利と平等なアクセスを保証する。
ミュージアムは営利を目的としない。ミュージアムは参加型で透明性があり、多様なコミュニティと積極的に連携して、世界の知識を収集、保存、研究、解釈、展示、強化し、人間の尊厳と社会正義、世界の平等、健全な地球に貢献することを目指している。

この定義案は9月7日の臨時総会での採択を目指したが、「観念的すぎる」「空虚なバズワードの羅列だ」「教育機能が軽視されていて、公的支援を受けにくくなる」などの反対論が出ていた。総会では、議論が尽くされていないという慎重論が優勢となり、採決延期を求める動議が投票にかけられ7割の賛成で可決。定義の改訂は見送られた。
しかし、これを受けたICOMのスアイ・アクソイ会長は、この投票は議論の終結を意味するのではなく、“新たな章”の始まりだと強調し、今後も再定義のプロセスを進めていくと語っている。

この論争の中、ミュージアム・コミュニティでも動きが起こっている。イギリスの博物館協会(Museum Association)は、10月3~5日にブライトンで開催する年次大会で「ミュージアムとは何か?」を問うセッションを行う。パネリストには、ICOM定義委員会の議長を務めるジェッテ・サンダール、芸術と遺産教育に取り組む非営利組織Culture&のアーティスティック・ディレクター、エロール・フランシス、『Museum Activism』の編者でレスター大学教授のリチャード・サンデルらが予定されている。イギリスは、米国、オランダとともに定義の改訂に前向きな国の一つ(フランス、イタリア、ドイツ、カナダ、ロシアは異議を唱えている)。ここでの議論にも注目したい。

2019.9.25(秋葉美知子)