私のソーシャル・プラクティス(2)―アート・スタジオ大山の活動と公園での野外展覧会

アーティスト尾曽越理恵(おそごえりえ)さんの活動は、2022年5月20日の本ブログで紹介しましたが、その後も彼女は社会を変える一歩として、自らのソーシャル・プラクティスを続けています。手応えと課題の両方を感じたその経験と、今の思いをエッセイに書いていただきました。


アート・スタジオ大山の壁に掛けられた参加者の作品の数々

生きにくさを感じる人たちの表現の場となっている

去年の5月から始めた池袋の公園での炊き出しアートスペースを発展させた場所として、今年(2022年)の3月から板橋区に「アート・スタジオ大山」を創設し、半年余りが経ちました。スタジオには炊き出しに参加する人ばかりでなく、精神疾患を持つ人や休職中の人、生活保護受給者や高校中退者など、社会に幅広く存在する生きにくさを感じている人たちが定期的に集まり、独自の個性的な作品制作をしています。利用者の人たちは皆、意欲を持って創作に励んでいます。精神疾患で高校を中退せざるを得なかった女性は「スタジオに行ける日が楽しみです。学校に行けなかった私にとって、とてもいい場所なので」と言っています。

10月22日に、炊き出しアートスペースとスタジオの両方で描かれた作品の展覧会を公園で開催しました。今年の展覧会は去年の東京芸術劇場のギャラリーとは違って、野外の公園で行いました。ホームレス支援団体「てのはし」による炊き出しが行われている東池袋中央公園です。野外で行うアイデアは自由学園の生徒さんたちが考えたものです。池袋に来る若い人たちを呼び込みたいということからでした。しかし予定していた生徒さんたちとのコラボレーションは8月末に頓挫してしまい、展覧会のタイトルと開催場所を決めたまま、残念ながら彼らはこのプロジェクトから引き揚げてしまいました。自由学園で参加予定だった9人の生徒さんたちは音楽や絵画に対する意欲はあっても、社会に対する意識を持つことは難しかったようです。

 

東池袋中央公園での展覧会

参加者、観客との対話もはずんだ

展覧会には12人が参加し、全部で42点の作品を展示しました。それを約100人の観客の方に見ていただきました。作品にはキャプションを付けて作者の意図や作者自身の言葉を紹介しました。たとえば社会的弱者の目から見た今の社会を批判する言葉などです。また対話カフェを設置して椅子を置き、小さなペットボトルのお茶を配って、観客と作者との対話を促しました。公園で展示することで、ギャラリーには来ない人や、たまたま立ち寄って興味を持った人にも見てもらうことができました。
「これまでこういうことを意識して生活していなかった、大変な人がいるのだとわかった」と言う人。また「個性的だと思った、自由に描いて圧倒された。私もやってみたい」「書いてある文に共感した、私も障害者でこういうことを思っている」という感想をいただきました。中には小田原から2時間かけて見に来たという方もいて、ご自身の息子さんも精神障害者で「共感することが多く、力づけられた。2時間かけて来て良かった」と言って帰られました。また、ある新聞社の方に「なかなかない催しだ」と言われたことも印象に残りました。

今年の展覧会も準備や片づけはスタジオのメンバーとボランティアで素早くやり、案内状やお茶を配るなどして特別に良く働いてくれたメンバーもいました。この展覧会では作品を見せるだけでなく社会で見落とされがちな人たちが何を思い考えているかということを重視して、それを社会に発信することが大きな目的でした。 こうした現状を知って、考えてもらうことは現状を批判し常識とされていることを問うことでもあり、社会を変えることへの一歩であると思います。それこそが私のソ-シャル・プラクティスです。日本では社会や政治に目が行く人は少数のような気がします。そんななかでも、私は今後も自分のコンセプトをゆるぎなくやっていきたいと思っています。

尾曽越理恵 Rie Osogoe https://www.osogoe.com/

2022年11月9日