ICOMプラハ大会、ミュージアムの定義を更新

ミュージアムとは何か? 2019 年 9 月の ICOM (国際博物館会議/International Council of Museums)京都大会において、時代に即したミュージアムの新しい定義が提案されたものの、その内容が論議を呼び、採決延期になったことはこのブログでも紹介したが、その後も改訂に向けた作業は継続され、今回のプラハ大会の臨時総会で、新提案が賛成多数で承認された(賛成487、反対23、棄権17)。

以下、2007年に更新された現行の定義、2019年に提案されたが採択されなかった定義、今回承認された最新の定義を比較してみよう。

①【2007年~】
A museum is a non-profit, permanent institution in the service of society and its development, open to the public, which acquires, conserves, researches, communicates and exhibits the tangible and intangible heritage of humanity and its environment for the purposes of education, study and enjoyment

ミュージアムは、社会とその発展のために奉仕する、非営利で常設の、一般に公開される機関であり、教育、研究、楽しみを目的として、人類とその環境の有形および無形の遺産を取得、保存、調査、伝達、展示する。

②【2019年の提案】
Museums are democratizing, inclusive and polyphonic spaces for critical dialogue about the pasts and the futures. Acknowledging and addressing the conflicts and challenges of the present, they hold artifacts and specimens in trust for society, safeguard diverse memories for future generations and guarantee equal rights and equal access to heritage for all people.
Museums are not for profit. They are participatory and transparent, and work in active partnership with and for diverse communities to collect, preserve, research, interpret, exhibit, and enhance understandings of the world, aiming to contribute to human dignity and social justice, global equality and planetary wellbeing.

ミュージアムは、過去と未来について重要な意味を持つ対話のための、民主的、包摂的かつ多声的な空間である。ミュージアムは現在の対立や課題を認識し、それらに取り組みつつ、社会の委託のもと、人工品や[動植物・鉱物などの]標本を保管し、将来の世代のために多様な記憶を守るとともに、すべての人々のために、遺産に対する平等な権利と平等なアクセスを保証する。
ミュージアムは営利を目的としない。ミュージアムは参加型で透明性があり、多様なコミュニティと積極的に連携して、世界に関する知識を収集、保存、研究、解釈、展示、強化し、人間の尊厳と社会正義、世界の平等、健全な地球に貢献することを目指している。

③【2022年8月に承認された新定義】
A museum is a not-for-profit, permanent institution in the service of society that researches, collects, conserves, interprets and exhibits tangible and intangible heritage. Open to the public, accessible and inclusive, museums foster diversity and sustainability. They operate and communicate ethically, professionally and with the participation of communities, offering varied experiences for education, enjoyment, reflection and knowledge sharing.

ミュージアムは、有形および無形の遺産を研究、収集、保存、解釈、展示する、社会に奉仕する非営利の常設機関である。ミュージアムは、一般に公開され、アクセスしやすく、包摂的であり、多様性と持続可能性を育む。ミュージアムは、倫理的、専門的に、そして地域社会の参加を得ながら運営とコミュニケーションを行い、教育、楽しみ、省察、知識共有のためにさまざまな体験を提供する。

①に比べて倍以上の語数で作成された②の提案は、社会問題に向き合う姿勢や多様な人々との関係性を強調し、「socially engaged museum」とも呼べそうなミュージアム像が含意されていた。ミュージアム・アクティビズムの考え方を反映したこの定義は、多くの(保守的?)ミュージアムにとっては採用が難しかったという。今回の改訂は、現行の定義に沿いながら、「インクルーシブ」「ダイバーシティ」「サステナビリティ」「コミュニティ」などの時代に寄り添った言葉を加え、どんな館にとっても無理のない、最大公約数的定義になったと言えるだろう。
②の提案からは後退した感が否めないが、今日のミュージアムの在り方を、運営者だけでなく利用者の私たちも、今一度考え直す機会になればと思う。

2022.8.27 (秋葉美知子)