全米に広がる「NEA(全米芸術基金)を救おう!」運動

SaveNEA-AFTA-blue-square米国のトランプ政権は、3月15日に、2018会計年度の予算案の概要を発表した。軍事費や国土安全保障費を増やす一方、予想通り、芸術文化関連の予算は不要とみなされ、全米芸術基金(NEA)と全米人文科学基金(NEH)を、予算削減どころか廃止しようとしている。現在この2つの政府機関の予算は合わせて3億ドルほどで、今年度の連邦予算の0.01%にも満たないのだから、財政的な意味というより、政権の優先順位を明らかにするマニフェストと言えよう。

日本の文化庁に近い、非営利の芸術活動を支援する政府機関NEA(National Endowments for the Arts)は、これまでも、神聖を冒涜する作品や公序良俗に反する作品に助成金を出しているなどと、保守派の政治家から攻撃を受け、しばしば存亡の危機に陥ってきた。しかしなんとか乗り越えてきたのだが、今回は、大統領、上院・下院全てを共和党が握っている。

この危機に直面して、「Save the NEA」を合い言葉に、全米で議論が盛り上がっている。特に、NEAのブロックグラントに頼っている地方のアート組織にとって、NEAの消滅は大問題なのだ。アートはエリートの道楽ではなく、全ての人間にとってなくてはならないものである、アートは経済発展に寄与する、アートは雇用を生む、アートは子どもの教育にプラスになる、アートは心の病を癒やす、軍事費を増やす一方退役軍人のためのアートプログラムを実施するNEAを廃止するのはおかしい等々、アートに対する公的支援を正当化する根拠をはじめ、NEA設立の経緯やこれまでの歩みなどが、新聞など一般向けのメディアでさかんに報道されており、この組織の存在意義を広く人々に知らしめる効果を生んでいると思う。

具体的なアクションも起こっている。この事態に黙っていられないと立ち上Artists for the Artsがったオペラ歌手、ジョナサン・エスタブルックスは、世論の支持を得るために、Change.orgで署名活動を始めた。すると5万人にのぼる賛同者が集まった。この反響に勇気づけられた彼は、アーティストを集めて「芸術への賛歌」をレコーディングしよう!と、Change.orgやFractured Atlasを通じてファンドレイジングを行い、仲間に声を掛け、協力の輪を広げていった。

こうして、ブロードウェイのミュージカル俳優を中心に多くの歌い手や演奏家が集い、ビートルズの「ウィズ・ア・リトル・ヘルプ・フロム・マイ・フレンズ」をカバーしたキャンペーン・ソングをニューヨークのアバター・スタジオでレコーディング。USAフォー・アフリカの「ウィ・アー・ザ・ワールド」を思わせるセッションで、そのグループ名も、なんとアーティスツ・フォー・ジ・アーツという。この歌のダウンロードやCD販売の収益金は、アート・アドボカシー団体アメリカンズ・フォー・ジ・アーツに寄付され、Save the NEAキャンペーンに使われるという。

(秋葉美知子)