危機の時代を生き延びるアートプロジェクト
「アートプロジェクト」というと、ある地域で一定期間(主に自治体主導で、地域の経済的・文化的振興を目的として)多拠点同時並行で開催される芸術祭をイメージする人が大半ではないだろうか。2000年代になって雨後の筍のように増え、トリエンナリゼーションなどと呼ばれるようになったが、なかには目指した成果を得られず終了するものもあり、淘汰の時代に入ったようだ。その意味で、本書のタイトルは、プロジェクト自体のサバイバルをテーマとしているように誤解されかねないが、そうではない。そもそも「アートプロジェクト」という1wordの用語は日本独自の造語で(artprojectという単語は海外の文献では見たことがない)、その定義は、前述した地域芸術祭という当初の理解から、今では「あえてごくシンプルに言うならば、美術館やギャラリーなどの「外部」で開催されるアート活動のことである」(熊倉純子・長津結一郎)と、非常に大きなアンブレラ・タームに拡張している。これに従えば、いろんなものを入れ込むことができてしまう。本書は、その巨大な傘の下で、アートティストの発想をコミュニティとの協働につなげるさまざまな形の(ソーシャル・プラクティス、プレイス・メイキング、パブリック・アート、リレーショナル・アートなど他の呼び方もできる)プロジェクトを紹介している。災害やパンデミック、分断や孤立、差別や偏見が広がる危機的時代に生きる私たちにって、アートはどんな役割を果たせるのか、というのがタイトルの意味するところだ。形式としてのアートプロジェクトではなく、個別の目的と方法を持つ「アート・プロジェクト」。タイトルにはこちらを使ってほしかった。
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