パブリック・ウォーター Public Water
清浄な飲料水は人間の日常生活になくてはならないものだ。特に大都市では、遠く離れた水源から複雑な水処理システムを経て、人々に届けられる。「パブリック・ウォーター」は、ニューヨーク市の飲料水システムをテーマに、ウェブメディア、屋外彫刻、パブリック・イベント、教育プログラムを複合したプロジェクト。エコロジーと持続可能性に着目して活動するアーティスト、メアリー・マッティングリーが発案し、ソーシャリー・エンゲイジド・パブリック・アートを支援するNPO「モア・アート(More Art)」のプロデュースによって実現した。清浄な水を手に入れるための人間の配慮(human care)を重視し、近隣のコミュニティ、そして地球との間により深い相互関係を築くことを呼びかける取り組みだ。
このプロジェクトを象徴するアートワークが、《Watershed Core》と題する高さ約3メートルのジオデシックドームで、2021年6月3日から9月7日まで、ブルックリンのプロスペクト公園の入り口に設置される。野生の草花が植わったプランターで覆われたこの彫刻は、雨水の濾過装置でもあり、ドーム上部に溜まった水が配管システムを通って、植物や土で濾過され、最下部の容器に流れ込む仕組みになっているという。もともとこのドームは2020年に設置する予定だったが、新型コロナウィルスの感染拡大で延期せざるを得なくなり、その1年を「パブリック・ウォーター年間」として、専用のウェブサイトとSNSを使い、ニューヨークの水の歴史やその社会的・経済的な意味を深く掘り下げるキャンペーンを続けた。サイトを覗いてみると、そのコンテンツは1冊の本になるほど盛りだくさんである。6月29日には、ドームを出発点にアーティストが案内役となって公園の水路をめぐるウォーキングツアーと記念の集いが行われた。
アートを入り口として、環境教育という多分野にわたる課題に取り組むプラットフォームを人々に提供するこの取り組みは、ソーシャル・チェンジを目指すSEAのアプローチの一例として参考になるプロジェクトだ。
アーティスト、メアリー・マッティングリーについては、SEA専門マガジン『ア・ブレイド・オブ・グラス』第3号に関連記事が掲載されている。以下より、この号のpdfをダウンロードできます。
https://www.art-society.com/researchcenter/wp-content/uploads/2020/10/ABOG_3_JP.pdf
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