SEA展レクチャー報告:ダレン・オドネル(Mammalian Diving Reflex)

ママリアン・ダイビング・リフレックスの参加型パフォーマンスは「社会の鍼治療」
Participatory performance by Mammalian Diving Reflex is called “Social Acupuncture”
ダレン・オドネル Darren O’Donnell(ママリアン・ダイビング・リフレックス 芸術ディレクター)

2017年2月18日から3月5日までアーツ千代田3331で開催した「ソーシャリー・エンゲイジド・アート展」の一環として、カナダのアート&リサーチ集団ママリアン・ダイビング・リフレックスを招き、《子どもたちによるヘアカット Haircuts by Children》を東京で実施しました。このプロジェクトに合わせて初来日した、芸術ディレクター、ダレン・オドネル氏のレクチャー(2月24日開催)のエッセンスをレポートします。


2月24日、アーツ千代田3331にて photo by Haruhiko Muda

2月24日、アーツ千代田3331にて photo by Haruhiko Muda

Mammalian Diving Reflex(MDR)は、1965 年カナダ、エドモントン生まれの作家、脚本家、パフォーマンス・アーティストで都市計画の学位も持つ、ダレン・オドネルが 1993 年に設立したアート & リサーチ集団である。2003 年まではオドネルの舞台パフォーマンスが中心だったが、伝統的なヨーロッパ演劇の後進性や硬直性に限界を感じた彼は、「人々はお互いにどのように関わりあえるか」をテーマにアプローチの幅を広げ、学校や老人ホーム、地域組織、国際アート・フェスティバルなどとのコラボレーションで、“社会の鍼治療(Social Acupuncture)” と称する、挑発的な参加型プロジェクトを行うようになった。オドネルは2006年に著書『Social Acupuncture』を出版し、MDR の創造的方法論を確立するとともに、これまでに蓄積したデータや知見を生かして、他の芸術文化組織などへのコンサルティングも行っている。

 

社会の鍼治療(Social Acupuncture)とは

megan photo Yoshiaki Nanjo

《子どもたちによるヘアカット》2月26日、東京ビューティーアート専門学校にて  photo by Yoshiaki Nanjo

私は指圧を18ヵ月学び、漢方医学も勉強した。社会の鍼治療は、陰陽思想、つまり、世界には互いに対立する2つの存在で成り立っているという考え方に基づいている。富裕があるから貧困がある。白人という概念があるから黒人が存在する。
一方に過剰、一方に欠乏がある。それは、社会の中で資源の分配がうまくいっていないから。社会という身体にハリを突き刺して、エネルギーや資源の流れを変えるのが「社会の鍼治療」だ。
この考え方には、2つの前提がある。1つは、誰もみな、望ましい状況にあれば、寛容であるということ。もう1つは、余剰があっても、それが足りないところに流れていないこと。
そこで、社会的矛盾がバッテリーになり、パフォーマティビティの原動力となる。パフォーマティビティという言葉は「パフォーマンス的」という意味で使われることがあるが、私は言語学でいう「行為遂行性」の意味で使っている。つまり、あるセンテンスを言葉で発すること自体が、そのセンテンスの表している内容の実現となる、たとえば、牧師が結婚する2人に「私は今、あなたがたを夫婦と宣言する」というような場合だ。それによって、現実に2人の関係性は変わる。ある行為によって、何かが現実に変わるとき、私はそれをパフォーマティビティと言っている。
《子どもたちによるヘアカット》は、子どもたちが大人の髪を切る権利についての芝居ではない。子どもたちが現実にその権利を持つのだ。

 

ソーシャル・スペシフィックなアート・プロジェクト

心の鍛え方

オドネル氏のプレゼンテーションより作成

「社会の鍼治療」は、社会的・社交的関係(social relations)が主要な材料だ。画家がキャンバスを材料にするように。その意味で、私たちのアートワークはサイト・スペシフィックではなく、ソーシャル・スペシフィックである。そこでの最初の問いは「誰?」である。そこには少なくとも、2人の“whos”がおり、アーティストはその1人だろう。SEAプロジェクトは、よく「一般人general public」を対象にしているというが、私たちはgeneralではなく、specificな人々を対象にしている。
そして、人と人との間に社会的な不快感、不安感(social discomfort)を意図的に作り出す。《ヘアカット》では、子どもにとっても大人にとっても、落ち着かない状況が生まれる。そういう状況から寛大な精神が育つ。
図に示したのは、肉体にしても頭脳にしても、より大きく鍛えるためにはストレスが必要で、それによる障害を乗り越えてこそ成果が得られるというシナリオだ。大きな心は、他者から受けるストレスによって鍛えられる。

 

いくつかの事例

training photo Art & Society Research Center

《子どもたちによるヘアカット》ワークショップ。東京ビューティーアート専門学校にて

《子どもたちによるヘアカット》2月26日

《子どもたちによるヘアカット》パフォーマンス。初対面の子どもと大人が対話する

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チルドレンズ・チョイス・アワード photo:Mammalian Diving Reflex

アートの観点からいうと、《子どもたちによるヘアカット》はヘアスタイリングがアートではない。美容師がヘアカットの講習をするのは、上手に切ることを教えるのではなく、切ってもいいんだ、という自信を与えるため。子どもと大人の関係性がアートだ。日本ではどうか知らないが、イギリスやアメリカ、カナダでは、子どもは見知らぬ大人と話をしてはいけないと言われる。このプロジェクトは、全く縁のない2人の間で共有される、親密で希有な時間をめぐってのパフォーマンスである。
大人の社会が子どもをどう受け入れるかについてのプロジェクトには、他に《チルドレンズ・チョイス・アワード Children’s Choice Award》がある。これは、地域のアート・フェスティバルに、子どもたちが審査員としてVIP待遇で参加し、彼らが自分たちの選択基準で選んだ作品に賞を贈るというもの。これは、子どもたちにグッド・アートを教育することが目的だと思われがちだが、それはほんの一部で、「文化イベントは子どもたちをどう受け入れるか」の問い直しがメインテーマだ。これと同様の考え方で行っているのが《イート・ザ・ストリート Eat the Street》である。子ど

イート・ザ・ストリート photo by Lisa Kannakko

イート・ザ・ストリート photo by Lisa Kannakko

もたちが大人のオーディエンスと一緒に地域のレストランで食事をし、自分たちの価値観で評価を下す。このイベントも、様々な経済的、文化的バックグラウンドを持つ子どもたちにテーブルマナーやレストランでの振る舞い方を教育するためかと誤解されがちだが、そうではなく、子どもたちを大人の場に介入させることが目的だ。子どもたちだけでなく、MDRはシニアに注目したプロジェクトも行っている。《私が経験した全てのセックス All the Sex I’ve Ever Had》は、地域のシニア6人にこれまでのセックス体験を4時間にわたってインタビューし、計24時間の録音を90分の脚本に書き起こす。そして、6人がパフォーマーとして登場するステージ・ショーを一般公開する。このショーがユニークなのは、パフォーマーが観客に対して、自分の経験に基づいた質問をすることができること。たとえば「屋外でセックスする人は手を上げて」という軽い問いから始まって、質問はだんだんハードになり、会場で議論が展開する。もちろん、ここで語られた情報は会場の外には出さないことを観客にもプレスにも制約してもらっている。

私が経験した全てのセックス photo by Lucia Eggenhoffer

私が経験した全てのセックス photo by Lucia Eggenhoffer

 

若者とのコラボレーション

MDRは、トロントのパークデイル・パブリックスクールの子どもたちと継続的な取り組みをしてきた。2006年の《子どもたちによるヘアカット》から始まって、2009年《イート・ザ・ストリート》と続き、2010年、その1人の14歳の男の子が「次は何をするのか」と尋ねてきた。これをっかけに、地元のティーンエイジャーたちが「トロントニアンズ」というグループを結成、MDRとのコラボレーション・プロジェクト「ヤング・ママルズ Young Mammals」に発展した。
我々は若者たちの関心事を吸い上げ、彼らが持ち込んだコンテンツに、(アートとしての)形式を提供する。そうして生まれたプロジェクトの代表例が《ティーンエイジャーとの夜の徘徊 Nightwalks with Teenagers》だ。10代の若者とコミュニティの大人が、夜中に一緒に散歩するという企画で、現在は世界各地をツアーするまでになっている。どの地域で行うときも、少なくとも2人のトロントの若者が参加している。
我々は、若者たちとのコラボレーションにMDRの活動の将来への継承を期待している。そこでのキーコンセプトは、「Succession(継承)」「Collegiality(同僚意識)」「Social Capital(ソーシャル・キャピタルの共有)」「Love and Friendship(愛と友情)」、そして「Performativity(行為による実現)」である。

文:秋葉美知子

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