博物館法の改正で、日本の博物館は変わる?

関心のある人は少ないかもしれないが、博物館の設置や運営について規定している「博物館法」が約70年ぶりに改正され、4月1日に施行された。改正のポイントとして、自治体や財団法人等に限定されていた設置者要件を撤廃して、株式会社や学校法人、社会福祉法人などの施設も登録できるようになった(これまでは博物館相当施設、博物館類似施設という位置づけ)、法律の目的に「文化芸術基本法」の精神に基づくことが追加された(えっ、今ごろ?と思うが、これまで博物館は社会教育法のための施設だった)、博物館の事業に博物館資料のデジタル・アーカイブ化を追加、などがあげられているが、SEAにとって見逃せないのは、他の博物館との連携、地域の多様な主体との連携・協力による文化観光など地域の活力の向上への寄与が努力義務化されたことだ。博物館(歴史資料館、美術館、科学館、動物園、植物園、水族館などさまざまな形態がある)を観光振興に活用しようという意図が見える。しかし、これからの博物館に求められる役割は、観光資源となるだけではないことはもちろんだ。

世界のミュージアム・コミュニティでは、“ミュージアムの中立性”はもはや神話であり、不平等、不正義、地球環境の危機が深刻化するこの時代に、ミュージアムは、現実世界のさまざまな課題に深く関わり、社会的、政治的、文化的変革のための能動的エージェントへ変身すべきだという考え方が浸透してきている(『Museum Activism』より)。そして、その動きを促進、支援する仕組みも存在する。

英国のミュージアムと関係者の会員組織Museums Associationのウェブサイトを見るとそれがよくわかる。“Inspiring museums to change lives”をミッションとするこの組織は、いわゆる業界団体を超えて、ミュージアムが発信する価値観にもこだわり、英国のミュージアム全体に関わる課題をキャンペーンテーマとして、その課題に取り組む施設を支援する理論や資料、事例などを豊富に紹介している。現在9つのキャンペーン(アドボカシー、アンチ・レイシズム、収集品、ミュージアムの脱植民地化、エシックス、学習とエンゲイジメント、ミュージアムは人生を変える、気候正義のためのミュージアム、[ミュージアムの]労働力)が展開されているが、中でも気候危機、脱植民地化、アンチ・レイシズムが最近の中心テーマになっている。

Museums Associationsウェブサイト内「キャンペーン」のページより

たとえば「気候正義のためのミュージアム」のページには、ミュージアムにおける気候アクション(来場者の認識を高めるのにとどまらず、変化を支持したり、自ら変化することを含む)に役立つツールや知識、読むべき本のリストなどを集めたライブラリー“Climate resources bank”があり、ここはミュージアム関係者でなくとも有益な資料が満載だ。

気候アクションに役立つ資料満載のClimate resources bank
文化庁innovative MUSEUM事業の「地域課題対応支援事業」説明図(文化庁「令和4年度博物館法改正の背景」参考資料より)

Museums Associationのサイトには、ソーシャリー・エンゲイジドという言葉があちこちに出てくる。このことは、日本のミュージアムも当然意識しているだろうが、それを積極的に支援する体制になっているだろうか? 日本における同種の組織、日本博物館協会にはそういった活動は見られない。文化庁のInnovate MUSEUM事業の「地域課題対応支援」枠は、「これからの博物館に新たに求められる社会や地域における様々な課題(地域のまちづくりや産業活性化、社会包摂、人口減少・過疎化・高齢化、地球温暖化やSDGsなど)に対して、先進的な取組による解決を図る」博物館を支援する補助金で、ソーシャリー・エンゲイジド・ミュージアムの推進が狙いのように見える。しかし、英国のように具体的なテーマに即して積極的にリソース提供して行動を促すのではなく、あくまで待ちの姿勢。事業の立て付け自体にイノベーティブな発想がより必要ではないだろうか。

2023.4.3(秋葉美知子)