リサーチラボの活動

SEAヒストリー研究会~日本におけるSEAを読み解く 第2回実施報告

2016年04月14日

【テーマ】    マッピング(後半): 1950年代の日本美術の動向を中心に 〜実験工房、具体美術協会、九州派における、SEAに繋がる要素をマッピングする〜

【プレゼンター】 清水裕子(アート&ソサイエティ研究センター副代表)

【日 時】    2016年3月24日(木)18:30-20:30

【会 場】    アーツ千代田3331 B1階 105室 (東京都千代田区外神田6丁目11-14 )

【内 容】

1950年代の時代背景やこの時代に関する中心的な美術評論(千葉成夫、黒ダライ児)を確認した上で、当時の3つの代表的な国内美術の動向と社会との関係性を考察した。西洋の動向からの影響関係と日本固有の展開を通じて新たな表現方法を模索する中で、作品の表現形態、発表の手法、素材選択については個々に集団的理念や地域性が反映されていることに注目した。

《キーワード》

  • 実験工房
  • 具体美術協会
  • 九州派
  • 労働組合
  • 素材

《疑問点・問題提起》

  • いわゆるエリート集団(実験工房、具体美術協会)と地方でおこった反芸術的集団(九州派)のように、芸術家同士においても社会的、経済的格差があったとされるが、作品の受け手にはどんな社会層が多かったのか。
  • いわゆるエリート層の芸術家は自身の表現のうちに社会的問題意識を含まない傾向があるのか。
  • 中央への反発意識を持った芸術運動が起こったのは九州だけだったのか。
  • 第9回頃から読売アンデパンダン展が急進したとされるのは、この年に結成された九州派が影響していたのか。

 

第2回SEAヒストリー研究会に参加して

高嶋直人(アート&ソサイエティ研究センターインターン、ファーレ倶楽部会員)

国内におけるソーシャリー・エンゲイジド・アートの萌芽をたどるSEAヒストリー研究会の第2回。今回は1950年代の中心的な美術の動向である実験工房、具体美術協会、九州派の位置付けをテーマとし、同時代的に生まれた各動向の特徴の比較によって、作品の表現形態、発表の手法、素材選択、拠点にしている地域性に関するキーワードから、海外交流が拡大したこの時代の日本における美術表現の特性を考察した。

前回のレポートで述べたように、私はこの研究会によって美術と社会状況の直接的な関係性の歴史を読み解き、今日の日本でソーシャリー・エンゲイジド・アートの実現によって美術と市民との間に新たな関係性が生まれることを望んでいる。近代以降日本の作品展示の場が屋外へと広がってきたが、第ニ次世界大戦中の金属供出やGHQ占領下の軍国主義的な彫刻の撤去、または大気汚染による彫刻のダメージなどを原因とし、設置されたうちの多くの屋外彫刻が撤去され作品に対する市民の関わり方と価値判断の重要性は浮き彫りになってきた。しかし、市民の中には地域の歴史背景を守り親しむという目的をもってアートを媒体とした活動を行っているグループが存在するものの、ボランティアとして軽視され、その活動の意義が認知されていない現状がある。ソーシャリー・エンゲイジド・アートの潮流は、地域社会の中に存在するアートの価値について自ら考え関わっていく市民をもう一度掘り起こし得ると期待している。

今回の議論では、3つの動向の特徴について、中央と地方、エリートと非エリート的な集団的特徴、国内と欧米などから対比されたが、作品に直接関わるメディアや素材については三者三様だった。芸術ジャンルを横断したインターメディアを追求した実験工房(拠点は東京)、関西を拠点に、従来素材にならなかった物質そのものによる作品や制作プロセスの重視、公共空間でのパフォーマンスを行った具体美術協会、労働組合を背景に労働者の生活に関連した素材を組み込んだ九州派といったように表現は個々に表れていることが明らかになった。

各動向について具体的な作品図版が資料として共有されたが、どのグループの作品を見ても表現の新しさに対する意識や素材の個性的な選択という意味では前衛であり、反芸術につながる要素を持っていたと言えるのではないだろうか。また実験工房が東京のタケミヤ画廊、具体美術協会が自ら阪神間に設立したグタイピナコテカという恵まれた発表の場を拠点として、どちらかといえば都会的な活動をしていたことに対し、九州派が炭鉱のある地方としての性質を強烈に放ちながら、東京に対して競争意識を持っていたことは、地域性とアートを考える上で興味深い。それぞれ作家たちの出生地を拠点に地域に根ざした活動をしていたことが明らかになったが、これは戦後多くの作家が東京を中心とした戦争被害を表現して注目された1940年代からの大きな変化だと感じた。(ルポルタージュ絵画の代表作家、中村宏は静岡県浜松市出身で東京都立川市、鶴岡政男は群馬県高崎市出身で東京都上野駅周辺をそれぞれ絵画の主題にしていた)

非共通点としては、実験工房は海外の美術潮流の実践をテーマとしたこと、具体美術協会はこれまでにないオリジナリティを求め制作プロセスを重視したこと、九州派は中央と地方を対立軸にした政治的なモチベーションがあったことが挙げられる。このように同時代の美術動向であっても、その活動理念、求める表現形態、素材の選択によって相違が生まれる。特に制作や発表の場としての地域性や社会性がアートに及ぼす影響は大きく、地域の個性を放って前衛的であった九州派のように、それはこれから生まれてくる日本のソーシャリー・エンゲイジド・アートのヒントになり得ると感じる。

1940年代後半から国内で広がった戦後社会派リアリズムの潮流をとりあげていた「日本アンデパンダン展」、「読売アンデパンダン展」も、H・ルソーらを輩出したフランスの「サロン・デ・アンデパンダン」を倣っていたことは前回の議論にあった。同時代的に各地で生まれた今回の3種の動向だが、第二次世界大戦の後から海外文化の流入が広がった中で、戦後社会派リアリズムの重いテーマを払拭し、新たな方向性を模索していたのかと推察できる。

今回の研究会では、国内の1950年代の前衛美術が第二次世界大戦直後の戦後社会派リアリズムにあったような社会問題を主題にとりあげることから解放され、戦後の復興へと向かう時代背景の中で自由な独自の集団理念に基づいて作品表現をしていたことが分かった。その中でも50年代後期に生まれた九州派は社会問題について意識的な集団であり、特に地方と中央を対立軸にした問題提起をおこない、作品に地域性を象徴する素材を組み込む方法で美術の伝統を破壊しようとする反芸術へと展開を見せたことは、ソーシャリー・エンゲイジド・アートの萌芽を考える上で重要と言える。

SEAヒストリー研究会~日本におけるSEAを読み解く 第1回実施報告

2016年03月08日

【テーマ】  マッピング(前半)戦後日本の美術運動・美術団体をたどる(1940~50年代)

【プレゼンター】  工藤安代(アート&ソサイエティ研究センター代表)

【日 時】  2016年2月26日(金)18:30-20:30

【会 場】  アーツ千代田3331 2階 会議室 (東京都千代田区外神田6丁目11-14 )

【内 容】

1946年から1950年代までの日本における美術運動/美術団体を時系列でたどり、戦後の日本美術が社会状況とどのように関係していたかを考察。今回は特に、アンデパンダン展について、その成り立ちや内容が議論の中心となり、いくつかの課題を次回に持ち越した。

《キーワード》

  • 日本アンデパンダン展
  • 前衛美術会
  • 職美協(全日本職場美術協議会)
  • 読売アンデパンダン展

《疑問点・問題提起》

  • 日本アンデパンダン展と読売アンデパンダン展は内容にどのような違いがあったか。
  • 読売アンデパンダン展は、具体的にはどのようにフランスの「サロン・デ・アンデパンダン」を倣ったのか。
  • (読売)新聞社がアンデパンダン展を主催した背景とは何か。
  • 戦後、国内の作家はどのような手段で海外の動向から影響を受けたのか。
  • 前衛美術会が異議を唱えたという社会主義的リアリズムとは何か。同様に新しく目指したシュルレアリスムとは何か。
  • 国内のSEAの萌芽を探るためには、戦後の動向からスタートするのは不適切ではないか。

 

第1回SEAヒストリー研究会に参加して 

高嶋直人

私はこの研究会に、アート&ソサイエティ研究センターのインターンとして資料準備の業務を兼ねて参加している。第1回目の今回は、1946年〜50年代における「美術」や「社会」の変化をマッピングするなか、さまざまな立場で美術と関係を持つ参加者の間で、当時の動向についての意見や疑問が活発に交換された。

そもそもSEAとはソーシャリー・エンゲイジド・アート(Socially Engaged Art)の略語で、何らかの前向きな社会変革を目指すアート活動/表現を意味し、現在世界的な潮流となっている。ただし、この動きを牽引している欧米でもまだ一般的な定義付けはされておらず、日本の状況を考えるとき、まずは社会と美術の関係性の歴史を整理することから始めなければならないということがこの研究会の背景にある。率直に言えば、私はこの潮流が美術と市民のあいだに何か新しい関係性を作り出してくれるのではないかと期待している。

現在、まちの具体的な歴史を背景にアートを媒介として活動を行う市民は存在するが、多くの場合がボランティアというあいまいな存在に甘んじている現状がある。例えば、私が所属している立川市のボランティア団体ファーレ倶楽部は、米軍基地跡地の再開発によって誕生した複合型都市空間「ファーレ立川」に設置されたパブリックアートを、基地問題(砂川闘争)等の歴史を背景に市民が主体となって守り、多くの人に知ってもらう活動を続けている。ボランティアとして軽視されがちだが、このような地域や歴史に根付いたアートと結びついた市民活動が、国内におけるSEAのヒントになると考えている。

この研究会で社会と美術の関係性の歴史を読み解くという行為は、ファーレ立川における砂川闘争のように、アートを通じた市民活動のモチベーションになりうる事象を丁寧にひたすら掘り起こしていく側面がある。その掘り起こしの結果として、市民の生活を左右するさまざまな社会問題や地域課題が明らかになり、前向きな社会変革へのモチベーションが高まることで、現代における日本のSEAの展開につながってほしい。

研究会の内容に戻れば、第1回のキーワードとして「日本アンデパンダン展」「前衛美術会」「職美協」「読売アンデパンダン展」などが取り上げられた。第15回読売アンデパンダン展について言えば、日比谷公園会場における作品の締め出しについてや、新聞社の展覧会主催背景など、参加者各々の知識を共有し、それらのキーワードについて理解を深められた内容だった。

「日本アンデパンダン展」や「読売アンデパンダン展」は、反芸術やハイレッド・センターといった60年代の前衛的な動向に影響を及ぼしたものとしても取り上げられる。戦後社会の芸術表現については第二次世界大戦直後のGHQによる抑圧的な文化政策などの反動が社会背景にあるとされているが、その背景と美術の表現はともに変化していった。具体的に言えば1949年の「日本アンデパンダン展」に出品され、戦後の国民の心情をうずくまる人物像にして描いた鶴岡政男の《重い手》をはじめとする戦後の閉塞感や絶望感を描く作品は、50年代には、社会に起きた歴史的事件を記録的に描くルポルタージュ絵画として継承されていく。当時の山梨県曙村で起きた地主と農民との争いを描いた1953年の山下菊二の《あけぼの村物語》が代表である。戦後当時は現代で浸透しているような作家が市民とともに作品を表現していくという潮流はなく、ルポルタージュ絵画への変化は、戦後社会の閉塞感のようなイメージの表現から、社会的事実の記録という形で美術と大衆との距離を縮めることが考え出されたものであり、現代における市民参加型アートの先駆けだったのではないか。

今回のマッピングによってわずか5年のうちで二つの作品の間に社会的主題の変化があったことがわかった。次回のSEAヒストリー研究会では引き続き1950年代後半のマッピングが行われるが、当時は朝日新聞社主催の「世界・今日の美術」展の開催やM・タピエ、J・マチウの来日などによる海外からの情報輸入が盛んであった。その中で以上のような社会的主題を対象にしてきた作家の制作意欲はなんらかの変化があったのだろうか。社会状況と美術表現の変遷をどちらかに偏ることなく考察していきたい。

SEAヒストリー研究会~日本におけるSEAを読み解く

2016年02月11日

昨年に引き続き、ソーシャリー・エンゲイジド・アートをより広く、深く学び、議論する場として、今年度も研究会を開催します。これまでは、海外のSEAを中心に考察、議論をしてきましたが、今年は、戦後の日本の美術の動向や社会状況の変化から国内におけるSEAの萌芽と展開を掘り起こし、読み解くことを目的として「SEAヒストリー研究会~日本におけるSEAを読み解く」を開催します。各回、プレゼンターがそれぞれ異なる視点からアプローチし、その内容をこのページで報告していく予定です。

《開催スケジュール》第3回以降は決定次第、お知らせします。

第1回 「マッピング」 ※終了しました。

プレゼンター:工藤安代(アート&ソサイエティ研究センター代表)

日 時   :2016年2/26(金)18:30 ~ 20:30

会 場   :アーツ千代田3331 (東京都千代田区外神田6丁目11-14 )2階 会議室

定 員   : 10名(先着順)

参加費   : 500円(資料込み・コーヒー付)

 

第2回 「マッピング(後半):1950年代の日本美術の動向を中心に」

プレゼンター:清水裕子(アート&ソサイエティ研究センター副代表)

日 時   :2016年3/24(木)18:30 ~ 20:30

会 場   :アーツ千代田3331 2階 会議室

定 員   : 10名(先着順)

参加費   :500円(資料込み・コーヒー付)

 

お申し込み・お問い合わせ

メールに、氏名、住所、職業(所属)、申込み動機を記入のうえ、下記宛先までご送信ください。

email: info@art-society.com

『ソーシャリー・エンゲイジド・アート入門』を読む研究会シリーズを開催しました

2016年02月11日

地域や社会に深く関わり、実際に社会の変革をめざすSEA(ソーシャリー・エンゲイジド・アート)とはなにか?

アートと社会の諸問題に対して、理論と実例の両面から、多くのヒントを与えてくれるパブロ・エルゲラの『ソーシャリー・エンゲイジド・アート入門(以下、パブロ本と呼びます)』をテキストとして、社会に深く関わるアートの潮流を読み解くSEA研究会を2015年に開催しました。

全6回シリーズによるゼミ形式で、SEAというアートのあり方を理論と事例を通じて学んでいきました。

 

開催記録(2015年)

第1回 5/8(金)
米国におけるSEAの歴史とパブロ本の背景

第2回 6/26(金)
パブロ本を読む①「イントロダクション」、「第1章 定義」

第3回 7/16(木)
パブロ本を読む②「第2章 コミュニティ」

第4回 8/21(金)
パブロ本を読む③「第3章 状況」、「第4章 会話」

第5回 9/24(木)
パブロ本を読む④「第5章 コラボレーション」、「第6章 敵対関係」

第6回 10/29(木)
パブロ本を読む⑤「第7章 パフォーマンス」、「第8章 ドキュメンテーション」、「第9章 超教育学という視点」、「第10章 熟練の解体と再構築」

 

 

ソーシャリー・エンゲイジド・アート

第1回目はオリエンテーションとレクチャー形式で開催。パブロ本を持つSEAリサーチラボ実行委員で翻訳者の秋葉美知子と本研究会の趣旨を説明する工藤安代

 

ソーシャリー・エンゲイジド・アート

米国におけるSEAの歴史について語る秋葉美知子

 

ソーシャリー・エンゲイジド・アート

毎回受講生が担当する章のサマリーを発表し、議論を深めていくゼミ形式で研究会は進行した

ソーシャリー・エンゲイジド・アート

発表者や受講生の発言を促し、討論を活発化させるために各回毎にSEAリサーチラボ実行委員でパブロ本翻訳者の3名が交代でモデレーターを勤めた。第5回は清水裕子