SEAラボブログ

ア・ブレイド・オブ・グラスがSEAマガジンを創刊

2018年09月26日

SEAに取り組む米国のアーティストに対象を絞り、プロジェクト資金の助成と活動支援を行っているアートNPO「A Blade of Grass(ABOG)」が、2016年発刊の書籍『Future Imperfect』に続き、今度はSEAマガジン(年2回発行)を創刊した。

ABOGのフェローシップ・プログラムが類似の助成事業と異なる特徴は、選考したプロジェクトに対して単に資金提供するだけでなく、実践の現場を継続して追いかけ、リサーチ、レポートし、ドキュメンタリー映像の制作までを行っている点だ。その目的は、個別プロジェクトの評価にとどまらず、SEAという分野をより可視化することだという。そうすると、このマガジンの創刊も、当然といえば当然かもしれない。

ABOGエグゼクティブ・ディレクター、デボラ・フィッシャーは、これまで丁寧なフィールド・リサーチを重ねて得た情報や知見から、ビッグ・アイディアが、いかに小さな決断や行動を通して実現に至るかがわかった。それを広く共有し、人々をSEAに誘いたいという。

89ページに及ぶ創刊号のテーマは「WHERE」。リック・ロウへのインタビュー、ジャッキー・スメルの「Solitary Gardens」(独房に監禁されている囚人たちが独房と同サイズの庭を空地につくるプロジェクト)を、ABOGのフィールド・リサーチャー、参加者、キュレーター(第三者として)の視点で見る記事、来年春にサンフランシスコで開催予定のスザンヌ・レイシーの回顧展をキュレーションしているドミニク・ウィルスドンのエッセイ、ルーシー・リパードの1984年の著作から転載した「This Is Art? The Alienation of the Avant Garde from the Audience」と題するエッセイなど、興味深いコンテンツが並んでいる。。

冊子版はABOGのイベントでの配布のみだが、オンラインでデジタルブックを読むことができ、PDFをダウンロードすることもできる。

2018.9.26(秋葉美知子)

オープン・エンゲイジメントのFacebookは勉強になる

2018年07月21日

Open EngagementのFacebookより

米国の「Open Engagement(OE)」は、アーティスト主導のソーシャリー・エンゲイジド・アートに特化したコンファレンスで、2007年にスタートして以来、多様なジャンルのアーティスト、アクティビスト、研究者、学生、コミュニティ・メンバーなどが集い、さまざまな社会問題を共有、議論している。2018年のコンファレンスは、5月11日から13日まで、ニューヨークのクイーンズ美術館で、批評家のルーシー・リパード、アーティストのメル・チンを基調講演者に迎えて開催された。

2019年のOEは「調査年間」として、この分野の必要性について見直し、再評価をするという。その一環として、OEが2013年の会議参加者から集めた「100の質問」のなかから1問を選び、毎週水曜日にOEのFacebookページで紹介している。7月18日に選ばれた1問は「How can we create work that is meaningful and useful?(意味深く、役に立つ作品を私たちはいかに創造できるか?)」。
また、毎週月曜日には、OEの創立者でディレクターのジェン・デロス・レイエスが選んだSEA関連書籍を1冊ずつ紹介している。7月16日に選ばれていたのは、ダレン・オドネル(ママリアン・ダイビング・リフレックス)の著書『Social Acupuncture』だった。
米国のSEA実践者の意識がわかるページとしてフォローしたい。

2018.7.21 (秋葉美知子)

 

英国アーツカウンシルによるクオリティ数値評価が、ようやく来年4月からスタート

2018年07月17日

英国アーツカウンシルのウェブサイトより

以前の投稿で、数値評価が大好きな英国のアーツカウンシル(ACE)は、補助金を支給しているNational Portfolio Organisations(NPOs)と呼ばれる芸術団体のうち、年間支給額25万ポンド(約3,700万円)以上のメジャーな団体(256団体)に対し、その団体が行う演劇や音楽の公演や美術展などの個々のプロダクションについて、共通のコンピュータ・ソフトを使ったクオリティ評価を義務化する方針を打ち出していることを書いた。その事業の実施にあたり、請負業者の入札が難航していたが、ようやく、来年4月からスタートする準備が整ったようだ。予想通り、パイロット事業を手掛けたCounting What Counts社が落札し、これまでQuality Metricsと呼ばれていた評価手法は、新しくImpact and Insight Toolkitという名称に変わって、9月に詳細が公表されるという。

2018.7.17(秋葉美知子)

アート・スポンサーと倫理の問題

2018年03月31日

美術館や劇場などの文化施設は、倫理的観点から特定の企業の資金援助を拒否すべきか? このことは日本ではほとんど議論を呼んでいないようだが、英米では非常にコントロバーシャルな問題だ。
英国ではアクティビスト・アート集団Liberate Tateが、国際石油資本BPがテート美術館のスポンサーであることに反対するゲリラ・パフォーマンスを行ったり、最近では、この夏イングランド北東部ニューカッスル/ゲーツヘッドで開催されるアート・フェスティバル「Great Exhibition of the North」にBAEシステムズ(国防・情報セキュリティ・航空宇宙関連企業)が資金提供を予定していたが、一部のアーティストのボイコット表明から抗議運動が高まり、BAEシステムズはスポンサーから撤退した。
米国のアクティビスト・アート集団Not An Alternativeは、「The Natural History Museum」と称するプロジェクトで、自然史博物館が石油や天然ガス会社から多額の資金提供を受けることにより、地球環境の真実が隠蔽される危険を暴き出している。

このような芸術文化支援と倫理の問題に関して、英国のアート関係者向け情報サイト「ArtsProfessional」が現在「アート・スポンサーシップにおける倫理~資金を受ける危険」と題するオンライン・サーベイを行っている。たとえばこんな質問がある。

  • 文化組織は、支援を受けるとき、スポンサー候補あるいは大口献金者候補がどんな活動をしているかを考慮すべきだと思うか?
  • 文化組織は、以下の分野で活動する組織や個人からの資金提供を断ることを考慮すべきだと思うか。当てはまる分野にチェックを入れよ 1.環境関連(化石燃料、汚染、原子力など) 2.政治関連(圧政、党派政治、軍備など) 3.健康関連(アルコール、たばこ、ギャンブル)など 4.動物関連(動物実験、工場式畜産など) 5.その他 6.考慮の必要はない
  • あなたの組織では、スポンサーシップや大口献金を受け入れる最終的な決定をするのは誰か?
  • あなたの組織は、スポンサーシップや大口献金者について倫理的に判断するための指針を持っているか?

一方で公的資金に頼らないファンドレイジングが求められ、一方で問題あるパートナーシップへの抗議行動が先鋭化する英国で、芸術文化関係者はどんな回答をするのたろうか。

2018.3.31(秋葉美知子)

女性史月間。あなたは女性アーティスト5人の名前を即座にあげられますか?

2018年03月02日

米国では(英国やオーストラリアでも)国際女性デー(3月8日)を含む3月は「女性史月間」。歴史的な出来事や現代社会に貢献してきた女性たちの業績を学び、称える月間として、全米でさまざまなイベントが行われる。

ワシントンDCにThe National Museum of Women in the Arts (NMWA)という、女性によるアートに特化した非営利の私立美術館があるのをご存じだろうか。5,000点を超える女性アーティストの作品コレクションをはじめ、展覧会、パブリック・プログラム、ライブラリー、そして芸術分野における女性の地位を確立するためのアドボカシー活動も行っている。「アートは社会の反映である。もし、アート界が女性を無視するなら、それは社会全体について何を言えるのか? 今日ジェンダー差別はさほど目立たなくなっているが、現代の女性アーティストは、いまだに障害や不均衡に直面している」という認識のもと、NMWAは、アートにおける性別格差に関する数値データを集め、ゲリラ・ガールズの戦術のように、“これを見よ!”とウェブサイトに掲載している。たとえば…

  • ビジュアル・アーティストの51%は女性
  • 大学のMFAコースの学生の65~75%は女性
  • 過去6年間に70の施設で行われた個展のうち女性アーティストの展覧会は27%
  • 米国のメジャーな美術館の収蔵作品のうち女性の作品は3~5%
  • 大規模美術館の館長のうち女性は30%
  • 『Janson’s Basic History of Western Art (9th Edition)』に紹介されたアーティストのうち女性は9%
  • アート関連の仕事をしている女性の年収は男性より2万ドル少ない

また、今年の女性月間に合わせ、NMWAは昨年に引き続き「Can You Name #5WomenArtists?」というソーシャル・メディア・キャンペーンを立ち上げている。Facebookはこう呼びかける。

「あなたは5人のアーティストの名前をあげられますか?」
「あなたは5人の女性アーティストの名前をあげられますか?」
「あなたは5人の非白人女性アーティストの名前をあげられますか?」

2018.3.2(秋葉美知子)

美術館はどれほど現実世界に関与できるのか?

2018年02月26日

The Queens Museum (photo by Leo Chiou, via Wikimedia Commons)

2015年1月から3年間ニューヨークのクイーンズ美術館の館長を務めたローラ・ライコヴィッチが、美術館の理事会との考え方の相違がもとで辞職した。ソーシャリー・エンゲイジド・アートの熱心な擁護者として知られるライコヴッチは、「世界中で悪くなっている数多くのことに芸術文化は取り組まなければならない。私はそれに重点を置き、エネルギーを注いできた。しかし結局、私のビジョンと理事会のそれは食い違っていた」とニューヨークタイムズ紙に辞職の理由を語っている。

彼女の理事会への不信感は昨年の夏、イスラエル関連イベントに美術館のスペースを貸す、貸さないをめぐる事件から高まったという。その事件とは……クイーンズ美術館はかつて1946年から50年まで、一時的に国連総会の場となっており、1947年11月29日、ここでパレスチナ分割が決議された。2017年、決議後70年の記念行事をクイーンズ美術館で行いたいという申し込みがあり、美術館は最初承諾したものの、パレスチナからの抗議を懸念し、館内のスペースで政治的なイベントは行えないという理由でキャンセルした(その判断は館長の意向とみられた)。しかし、それに対してイスラエル当局やニューヨークの市会議員から反ユダヤ主義だという批判が高まり、再度決定が覆り、イベントは予定通り行われた。

OR Book Assuming Botcott

また、ライコヴィッチは、ボイコットと撤退を手段とした世界のアート・アクティビズムについてのエッセイ集『Assuming Boycott』をニュースクール大学ヴェラ・リスト芸術・政治学センターのカリン・クォニらと共に編集・出版した(2017)。そのなかに「BDS and the Cultural Boycott of Israel」という章があること、この本を美術館のギフトショップで販売したことなども理事会の気に入らなかったようだ。

ライコヴッチの下でのクイーンズ美術館は、トランプ大統領の就任日(2017年1月20日)に「J20アート・ストライキ」の一環として、翌日のデモ行進に使うためのポスターやバナーをつくるワークショップを行ったり、SEAの先駆的アーティスト、ミエル・ラダマン・ユーケリスの回顧展を開催したり、この4月からは、さまざまな方法で社会介入してきたアーティスト、メル・チンの展覧会が、ライコヴィッチ最後のキュレーションで予定されている。

2015年1月に館長に就任した直後、ライコヴィッチはA Blade of Grass(ABOG)のウェブサイトに「The Urgency of the Unseen」と題するエッセイを書いている。「クイーンズはディアスポラとハイブリディティの現場。昔からニューヨークにやってくる移民たちが住み、豊かな多様性、混合性を持つ地域だ。私たちはいかに、クイーンズ美術館を、つくり手とビジターの双方にとって、さまざまな、複雑な、特別な体験の場として思い描けるだろうか?…クイーンズ美術館は、排除され、無視されてきたことを問題にし、探求する場所、展示、プログラムをつくり出さなければならない。その表明のなかにインスピレーションとビューティを込めて」。

美術館運営に乗り出そうとするこのときの熱い思いは、クイーンズでは果たせなかったかもしれない。しかし、彼女を支持し、より政治的にエンゲイジするアート・インスティチューションを求める公開書簡が、38人のキュレーター、アーティスト、研究者(ルーシー・リパード、マーサ・ウィルソン、グレゴリー・ショレット、ファン・アッベ美術館のチャールズ・エッシェ、ABOGのデボラ・フィッシャー他)の署名で発表され、芸術文化施設の社会関与についての議論を促進する呼び水となりそうだ。さらに彼女は2月15日に、ヴェラ・リスト芸術・政治学センターで行われた「いかにアートは避難場所として移民コミュニティを支援できるか?」と題するパネル・ディスカッションに、ニューヨーク市文化局長のトム・フィンケルパールらと参加している。
今後も、この議論のリーダーとして、ライコヴィッチの活動には注目したい。

2018.2.26(秋葉美知子)

 

ウェブ・ジャーナル「Seismopolite」がアーティスト・イン・レジデンスを特集

2017年12月06日

Seismopoliteウェブサイトより

Seismopoliteは「アートと政治のジャーナル」をキャッチコピーに、興味深いテーマ設定で世界のライターから記事を集め、年に3号くらいのペースでノルウェーのオスロから発信されているウェブ・マガジン。その最新の2号は、世界的に急増している「アーティスト・イン・レジデンス(AIR)」の近年の展開を、理論と事例の両面で特集している。
AIRはもともと、アーティストに日常生活の拘束から解放された時間と場所を与え、彼らの作品制作を支援することを目的に行われるのが一般的で、レジデンシーはいわば、誰にもじゃまされない「隠れ家(retreat)」であり、新しい創造の「インキュベーター」だった。しかしここ20年ほどは、アートの「ソーシャル・ターン」(クレア・ビショップ)、「コラボレイティブ・ターン」(マリア・リンド)に歩調を合わせるように、AIRも、アーティスト個人の作品制作より、コミュニティとの協働から生まれるソーシャル・プラクティスを意識したものが多くなっているという。この特集の記事の多くも、後者のタイプの“ソーシャリー・エンゲイジド・レジデンシー”に注目している。

AIRの文脈をたどり、今日の“社会形態”としてのAIRを論じた「アーティスト・レジデンシーの社会生活:見知らぬ土地と人々との交流」(Marnie Badham)、カナダ、エドモントン市役所での1年にわたるレジデンシーを事例に、AIRのどのような面を重視し、評価するかを論じた「埋め込まれた美学:論争と社会革新の場としてのアーティスト・イン・レジデンス」(Dr. Michael Lithgow and Dr. Karen Wall)、AIRの労働経済を論じる「アート・イン・レジデンシー:先行き不安、それとも好機?」(Sebastjan Leban)は、日本のAIRやアートプロジェクトを考える上でも参考になりそうだ。
その他、パキスタン、ブラジル、エクアドルのキトでの事例、米国ヴァージニア州の自宅にAIRを開設したアーティストとワシントン州立大学の研究者対象レジデンシーのディレクターが「ルーラルAIR」をテーマに語る対談などが掲載されている。

(秋葉美知子)

クリエイティブ・タイムのナトー・トンプソンが語る米国のアートワールド

2017年10月29日

Hyperallergicウェブサイトより。photo: Alyssa Maloof

このブログでもたびたび紹介しているニューヨークのアートNPO、クリエイティブ・タイムのアーティスティック・ディレクター、ナトー・トンプソンが、この11月、昨年設立されたばかりの「フィラデルフィア・コンテンポラリー」(注)のアーティスティック・ディレクターに就任することが決まった。
さまざまなSEAプロジェクトのキュレーターを務めると同時に、アートと政治に関する論客の一人として知られるトンプソンに、ウェブ・ジャーナル「ハイパーアレジック」の編集長、フラグ・バータニアンが、米国(特にニューヨーク)のアートワールドとSEAの状況について興味深いインタビューをしている。
以下、「ハイパーアレジック」の記事から、シンプソンの発言をいくつかを要約して紹介しよう。

 

  • この10年間に、インスティチューションが(美術館やギャラリーだけでなく市の行政機関も)SEAやポリティカル・アートに関心を示すようになってきた。
  •  最近、チェルシーを歩いたら、カラ・ウォーカーの展覧会、トレバー・パグレンの展覧会、デューク・ライリーの展覧会が開かれていて、物事は確かに変わっていると思った。
  • プレイスメイキングについていうと、これまでは、ネオリベラリズムと手をつないだリチャード・フロリダの「クリエイティブ・クラス」モデルに対する批評が主だったが、ここ数年議論はかなり変化している。都市環境における文化的生産(cultural production)の役割について批評的に会話することはきわめて重要だ。ジェントリフィケーションをめぐる戦線は、今現在チャイナタウンで問題が起こっているように、アーティストの作品もいかに都市開発と結びついているかをじっくり考えるためのるつぼとなっている。
  •  アートワールドを形成している人々の大半は権力から閉め出されているということは覚えておくとよい。つまり、ほとんどのアーティストはメジャーなギャラリーで作品展示をしていないし、アートで生計を立ててはいない。しかし、アートワールドの中で、ネオリベラリズムから恩恵を受けている人がたくさんいることも事実だ。
  •  商業世界を見回せば、多くのSEAを見いだすことはないが、アメリカ任意の都市に出かけてアートプログラムの話を始めれば、非常に多くの人々が自分たちの地域で仕事をしていることがわかる。“Forget whether or not it’s great work, it’s work being done”
  •  SEAがニーズを満たそうとしているとは思わない。しかし、そのプラクティスの根底には興味深い意図がある。アーティストたちは、何かを言おうとしているとことと何かをやろうとしていることの間の緊張関係を解決したいと思っているのだ。
  • オキュパイ・ムーブメントがなければバーニー・サンダースは出てこなかっただろう。
  • アートのことを全く知らない市民がシアスター・ゲイツのことを話題にするのを聞くにつけ、彼は重要な人物だと思う。
  •  ウェブ2.0は、広範囲のアーティストや世界の芸術嗜好を紹介してきた。かつては、「ニューヨークタイムズ」「アートフォーラム」「ホイットニー・ビエンナーレ」のどこかで紹介されないと問題外だったが、今ではもうそんなことはない。
  • インスティチューションが、今のところ口先だけでも、コミュニティ・エンゲイジメントに関心を示している。次のステップは実際にやることだ。それはインスティチューションにとっても健全なことだと思う。これまで、アートと政治は(インスティチューションの)教育課を通して集約されてきた。それが突然、キュレーターたちが後ろを振り返ってみると、教育課が最も重要な仕事をしていると気づいたのだろう。
  •  私はフィラデルフィアに8年間住んでいる。フィラデルフィアには、市民意識が高く、想像力に富み、ワイルドなアーティストがたくさんいる。ハリーともにここで新しいタイプのインスティチューションをつくることにワクワクしている。

 

(注)ペンシルバニア美術アカデミーの前館長ハリー・ヒルブリックが、分野横断的ビジュアル・アートとパフォーマンス・アートのプラットフォームとして2016年に設立したNPO。現在は常設のスペースを持たず、市内各所で期間限定のイベントやインスタレーションを展開しているが、数年後には拠点となる建物を建設する予定だという。

(秋葉美知子)

ヒューストンで、アーティストと活動家のブレインストーミング・セッション

2017年09月27日

テキサス州ヒューストンのNPO「ダイバースワークス(DiverseWorks)」は、1982年の創立以来、オルタナティブ・アート・スペースを運営し、革新的なプログラミングによって、アーティストの新しいアイディアを支援するとともに、アーティストとコミュニティの対話の場をつくってきた。

プロジェクト・ロウ・ハウスの実現にもこのNPOが重要な役割を果たしている。打ち棄てられたショットガンハウスに魅力を感じたリック・ロウたちアーティストのグループは、まずダイバースワークスを訪ね、ぜひ見てほしいとスタッフを現地まで引っ張って行った。すると彼らも興奮し、これは一時のイベントではなく長期的に活用できるだろうと、NEA(全米芸術基金)に助成申請をした。NEAも興味を示し、それが功を奏して、ロウたちはショットガンハウスを不在家主から買い付け特約付きで借り受けることに成功したという。

ダイバースワークスでは、9月23日から11月18日まで、「Lines Drawn(引かれた線)」と題する、国境や境界線にまつわる諸問題(移民、ナショナリズム、公平、人権)に取り組むアートワークを集めた展覧会を開催中だ。その関連プログラムとして、10月11日に「Artist/Activist Matchmaking」という、アーティストとアクティビストが矢継ぎ早に(rapid-fire)ブレインストーミングする場が設けられる。

このプログラムを企画したのは、プロジェクト・ロウ・ハウスとヒューストン大学マクガバン・カレッジ・オブ・アーツが共同で創設したフェローシップ(CotA-PRH Fellow)の2017年のフェローに選ばれた若手アーティスト、キャリー・シュナイダー。ブレストのテーマを、今ヒューストンで議論されている大きな社会問題―環境正義、反ジェントリフィケーション、LGQTIA、移民受け入れ、刑事司法改革、BLMHTXのハリケーン・ハービー救援の6つに設定。セッションの目的は、人材不足と燃え尽き症候群に陥っている活動団体に新しいアイディアを注入し、意欲的なアーティストを政治的関与に結びつけることだという。

スローガンは、“We are NOT making signs, we are making new possibles”
日本でも、こんなセッションが活発に行われるといいと思うのだが。

(秋葉美知子)