SEAラボブログ

私の ソーシャル ・ プラクティス ― 公園の炊き出しアートスペースからスタジオ創設まで

2022年05月20日

2021年10月15日付の本ブログで紹介した、ニューヨーク市立大学クイーンズ校のMFAプログラム「ソーシャル・プラクティス・クイーンズ(SPQ)」で学んだ日本人アーティスト、尾曽越理恵さん。コンセプチュアルな作品制作から現場での実践、そして新しい場を開くまで、自身の活動を振り返るエッセイを紹介します。


私は2020年秋から22年春までの2年間、ニューヨーク市立大学クイーンズ校の大学院プログラム「SPQ:ソーシャル・プラクティス・クイーンズ」に在籍しました。それまでは広島に落とされた原爆について、国民の立場からそれをどう捉えたかということをテーマに作品シリーズを創ってきました。
ホームレス問題に取り組む直接のきっかけは、キングスボロ・コミュニティ・カレッジの美術館で開催される、ホームレスをテーマとした企画展「Unhomeless NYC」の作品公募に応募したことでした。

私はまず、日本のホームレス問題はどうなのかということを考えました。なぜなら私はグリーンカードもなくただの学生ビザの留学生で、学業を終えてもニューヨークに滞在するつもりもありませんでしたので、自国のことを考えるのは当然だと思い、またそれを大学は許してくれました。調べてみると、日本のホームレス問題もアメリカ同様に酷いものだと感じました。特に、ネットカフェに滞在する隠れホームレスが一日4,000人もいるということに衝撃を受けました。彼らは何を考えて生きているのだろうか。それを知りたくて「てのはし」という炊き出しの主催団体に連絡を取り、取材の許可を得ました。

この日は470人以上が弁当配布の列に並んだ

アートスペースの様子。お互いに刺激し合う

2020年の年末に帰国し、21年の1月から、月2回の土曜日、池袋の公園で行われている「てのはし」の炊き出しに通いました。そこには無料のお弁当を手にするために人々の長い列ができていて、私はそこで列を回りながら人々の話を聞きました。そしてそれをスタジオワークの2Dや3Dの作品にしましたが、やがて作品としてモノを創ることよりも、もっと大切な、この人々との関わりをどう発展させたらよいのか考えなくてはいけないと気づきました。炊き出しの列で絵を描くのがとても好きな老人と出会ったことが、この場にアートスペースを創設するきっかけとなりました。5月に「てのはし」の許可をもらい、公園の一角にアートスペースを開き、手作りのチラシを配って参加者を募りました。アートスペースには、絵を描くことに興味を持つ人、何か意見が言いたい人、お弁当配布までの時間をつぶす人などが集まり、絵やテキストを描きました。たくさんの人との出会いがありました。

大きなキャンバスでの寄せ描き。横にキャプションを付けて作者のプロフィールや意図を紹介

ホームレスやトランスジェンダーの人たちの書いた文や絵を集めたセクション

そうしてできた作品を2021年11月にギャラリーで展示しました。同じ池袋にある東京芸術劇場の地下にある画廊です。ここはホームレスの人たちがよく行く場所です。展覧会タイトルは「聞かれてなかった声に耳を澄ませる」としました。

「展示作業には報酬を出します」と言って、公園のアートスペースに来ていた人たちから手伝ってくれる人を募集しました。常連さん中心に、本当にお金に困っている人たちが集まりました。彼らはよく働いてくれてスムーズに作業ができました。同時に、お昼ご飯を共にして話を聞くと、個々の人がどういう生活しているのか、どう感じて生きているのかが、アートスペースのときよりもよくわかりました。
共に一つの目的に向かって一緒に働いた仲間のような連帯感もでき、この経験が後のアートスタジオ作りの原動力となりました。

2022年3月に、板橋区の大山駅からほど近い場所に「アートスタジオ大山」を創設しました。このスタジオができるのを今か今かと待っていた公園のアートスペース参加者が二人います。

アートスタジオ大山の内部。いちばん左の花の絵の作者は、この後、内面を表現する凄い絵を描くようになった

その一人が元ホームレスの路上太郎(仮名)さん。アートスペースの常連だった彼は、展示作業まで手伝った結果、ホームレスから脱することができました。彼は生活保護だけは絶対受けたくないと、私の勧めにもかかわらず、ずっとホームレスでいたのですが、元々絵が好きで以前から独学で絵を描いていました。アートスペースで描いた彼の絵がテレビや新聞に出て、私のクィーンズ・カレッジの先生からもこの絵はいいと褒められたりした結果、今まで失っていた自信を取り戻し、再起の意欲がわいたのです。生活保護を受けないでホームレスを脱する方法を彼の友人が考えてくれ、この友人としばらく共に生活することで仕事も得て、平常の生活を取り戻しました。今は毎週スタジオに来て、生活するために絵を描く仕事がしたいと絵の勉強をしています。

左がNさんの動物画。図鑑を見ながら飽きることなく描き続ける。右が路上さんの自画像。苦しかったホームレスの頃を思い出して描いた

もう一人は、スタジオから歩いてすぐのところに住む81歳で生活保護受給者のNさんです。この人はスタジオに来れば5時間でも描き続ける人で、作品を量産してくれていましたが、最近健康に問題があるのか顔を見せません。近いうちに彼の家を訪問するつもりです。

彼らは何を考えて生きているのかという私の疑問は、そのまま、展覧会で、彼らの絵や言葉を展示することで表現されましたし、私の社会や政治に対する思いも表現できました。今度は私が知ったことをより広く社会に伝えるために、若い学生さんたちとコラボレートして公園で作品を展示することを計画しています。「てのはし」でボランティアを経験した自由学園の学生さんたちです。彼らも自分たちの体験したことを若い世代に伝えたいと思っています。

今の日本は危機的な状態にあると思います。為政者は軍事費拡大や改憲をやろうとしています。この危機を救うには、市民社会で下からのムーブメントを起こすことだと私はいつも思っています。残念ながら、この危機を感じているのは高齢者層で若い世代ではありません。私は若い世代に社会のことをもっと知って欲しいので、自由学園の学生さんたちとのコラボ活動に期待を持っています。

私の活動の基本にあるのは、自分が何を考えているのかを、声にして、社会に伝えることが重要だという思いです。アートスペースでもアートスタジオでも、絵を描く基本の姿勢はそこにあります。自分の声を社会に発表して人々に考えてもらうこと。これが私のアートです。クイーンズ・カレッジのSPQは私のこの仕事を支え励ましてくれました。もまなく、この活動で大学院の学位が授与される予定です。


尾曽越理恵  Rie Osogoe

1950年山口県宇部市生まれ。高校で画家を目指して美大の油絵科に入学するも、逆に油絵には全く興味を失い、現代美術を知るために京都市立芸大の大学院に進学し、シルクスクリーン作品を手がけた。その後、25年の結婚生活で2児を育てたが、離婚してニューヨークで抽象画を描き、日米を往来しながら発表。2016年頃から日本の政治、社会の変化に気づき、社会と関わるアートを模索して現在に至る。https://www.osogoe.com/

 

2022.5.20

 

ウクライナ避難民を支援するワルシャワの美術館

2022年04月07日

”サンフラワー”のシンボルマーク desing: Kaja Kusztra

2022年2月24日にロシアがウクライナに侵攻して以来、ポーランドは240万人を超える避難民を受け入れており、その幅広い支援の様子がしばしば報道されている。文化施設も例外ではない。ワルシャワ近代美術館は、アーティスト・コレクティブBlyzkist(ブライズキスト)とのコラボレーションで、ワルシャワ中央駅にほど近い美術館本部の一階を避難民のための空間に変え、“サンフラワー”連帯コミュニティ・センターと名付けた。当初は、毎日ここにボランティアが集って数千食のサンドイッチを作り、衛生用品などとともに難民シェルターに届けたり、おもちゃを用意して行き場のない子どもたちを遊ばせたり、ポーランドの身分証明書を取得するためのポートレート写真を無料で撮影したりと、緊急支援をしていたが、現在は、避難民が参加できるワークショップや教育プログラムへと活動を発展させている。

 

ワルシャワ近代美術館のFacebookより

こういった迅速な対応には驚くが、調べてみると、ワルシャワ近代美術館の難民支援は今に始まったことではなかった。ポーランドで20年にわたって難民・移民の支援をしているオツァレニエ財団(オツァレニエとはポーランド語で救済の意)、ワルシャワ美術館友の会との共催で、2017年から「Refugees Welcome」と題するチャリティ・アートオークションを開催してきている。アーティストから作品の提供を受け、その収益金はオツァレニエ財団が実施している難民への住居提供や就職支援事業、外国人ヘルプセンター運営の資金に充てられる。過去5回のオークションで、203人のアーティストが提供した285点の作品が落札され、784,000PLN(約2,350万円)のファンドレイジングができたという。

2022年のRefugees Welcomeは、4月8日から5月15日まで、アーティストから寄付された作品に加えて、現代の移住の物語を展開する作品展で構成され、オークションでは、ポーランド国内外の70人を超えるアーティストの作品が販売される予定だ。

2022.4.7(秋葉美知子)

ターナー賞2021は、北アイルランドのアクティビスト・アーティストコレクティブが受賞

2022年02月05日

1984年にテート・ギャラリーによって創設され、50歳以下の英国人もしくは英国在住の美術家に対して贈られる「ターナー賞(Turner Prize)」は、現代美術の世界ではもっとも重要な賞のひとつとして、毎年注目されている。

2021年の同賞は、ファイナリストに選ばれた5組が全て、地域のコミュニティと密接かつ継続的に活動し、アートを通じてソーシャル・チェンジを目指すアーティストコレクティブだということが話題となっていた。審査の結果、北アイルランドのベルファストを拠点とするアレイ・コレクティブ(Array Collective)が、「シビン」と呼ばれる無許可のパブを模した空間にさまざまな抗議運動のバナーを張りめぐらしたインスタレーションで受賞したことは、すでにいろいろなメディアで紹介されているのでご存じの方も多いだろう。

ここでは、彼らが受賞直後にFacebookに投稿したステートメントを紹介したい。

 

アレイ・コレクティブは、北アイルランドのアートとアクティビズムのエコロジーに光を当てる機会を与えられたことに、とても感謝しています。ノミネートされてからしばらくは、信じられない気持ちでいっぱいでした。しかし、世界的なパンデミックの中、アレイ・コレクティブとベルファストの仲間たちが、お互いに有意義で思慮深いことをするために、新たな一歩を踏み出す機会を得たことはとても幸運でした。
私たちが作品をつくり、私たちのアートが社会運動を後押しするのは、自分たちがより大きなものの一部になれば、集団的な利益のために問題を先に進められることを、目の当たりにしてきたからです。しかし私たちは知っています。私たちが重要な成果をあげたとしても、まだ周縁に取り残されている人々がいることを。

妊娠中絶は非犯罪化されましたが、それを受けることは北アイルランド議会によっていまだにブロックされています。HIV治療やトランスジェンダーのヘルスケア、LGBTの包摂、同意に基づいた性と人間関係の教育へのアクセスは、まだまだ惨めなものです。コンバージョン・セラピー[同性愛者やトランスジェンダーに対して、異性愛者に“矯正”または“転換”させるために行う一連の行為]は直ちに禁止する必要があります。
プロテスタントやカトリックの信条に縛られない学校の入学定員は何万人も不足しており、国民はより多くの統合教育[障害児と健常児を同じ場所で教育すること]を望んでいるのに、国会は実現しようとしません。
アイルランド語は、奪われたアイデンティティの再確立の中心にあり、今すぐ行動する必要があります。
紛争を経験した世代のトラウマは自殺につながり、自殺率は英国の他の地域より25%以上も高くなっています。それでもメンタルヘルスに対する助成金は最低です。
上級大臣たちは、気候保護のためのグリーンな未来政策に耳を塞ぎ、議会が開かれない丸3年の混乱にもかかわらず、私たちが賛成しなかったBrexitのために、[通商]合意を撤回する脅威が去っていません。

それでも、私たちは粘り強く、誇りをもって集い、互いに高め合いながら、誰もが直面するかもしれない障壁を壊そうとしているのです。私たちは、厳しい社会情勢にもかかわらず、ベルファストで行われている仕事とケアをとても誇りに思っています。ですから、私たちの小さな「シビン」は、愚か者とトラブルメーカーの仲間たちためのオマージュであり、休憩所です。私たちは皆さんに敬意を表します

 

ボリス・グロイスの言うように、現代美術の特徴が「国際性と普遍主義(internationalism and universalism)」だとすれば、アレイ・コレクティブはじめ最終選考に残った5組は、それとは真逆のロケーション・スペシフィック、イシュー・オリエンテッドな実践によって、現代美術の今を象徴するターナー賞を受賞した。この結果に対して、美術評論界から「ファイナリスト選定の段階から、今年度のターナー賞は、その“価値”リストの中で“美的達成” をかなり軽視していた」「アレイのインスタレーションは芝居のない舞台装置のようで、芸術的な意味は薄い」などという声があがったのも当然かもしれない。しかし、アート作品はさまざまな価値を持ち、その評価は「美学」の視点のみでなされるべきではない……そういった考え方は、ソーシャリー・エンゲイジド・アートが世界のさまざまなコミュニティで実践され、インスティチューションに認知されるとともに、アートワールドでも主流になってきたように思う(たぶんテートはその先導者だろう)。受賞の喜びより、自分たちの立ち位置を明らかにするアレイ・コレクティブのステートメントからは、改めてアートの意味や在り方を考えさせられる。

2022.2.5(秋葉美知子)

グレゴリー・ショレット教授のゼミナール・サイトはSEA研究資料の宝庫

2021年10月15日

アメリカにはソーシャリー・エンゲイジド・アート(あるいはソーシャル・プラクティス)を学べる大学のプログラムが数多くある。ニューヨーク市立大学クイーンズ校とクイーンズ美術館とのパートナーシップによって2012年に創設されたMFAプログラム「ソーシャル・プラクティス・クイーンズ(SPQ)」も代表的な一つだ。SPQの創設者の一人で、現在も教鞭を執っているグレゴリー・ショレット教授はアーティスト/アクティビストであり、著書や講演も多く、SEAやアート・アクティビズムの分野の論客の一人として知られている。
そのショレット教授は、現在、2021年秋学期の「History & Theory of Socially Engaged Art」と題するゼミを開講中だ。
ゼミの目的は、次のように記されている。

最近、ますます多くのアーティスト、キュレーター、評論家が、新しいタイプの参加型ソーシャリー・エンゲイジド・アート制作に力を注いでいる。これまで周縁化されていたものが、今では主流となり、美術館やビエンナーレはもとより、ストリートなどの公共空間でも注目されている。
このセミナーの目的は、ソーシャル・プラクティス・アートの理論と実践を調査研究し、批評し、歴史化することである。そこには、パフォーマンス、都市研究、環境科学、その他の社会活動関連の学問分野の中で、あるいはそれらの分野を越えて活動する、アクティビスト、インターベンショニスト、パブリック/参加型/コミュニティベースのアートも含まれる。
このクラスでは、次のような問いに焦点を当てる。

なぜソーシャル・プラクティス・アートの歴史と理論を理解することが有用であり、また必要なのか? ソーシャル・プラクティス・アートの歴史的ルーツはどこにあるのか? それは美術史の中にあるのか、外にあるのか、あるいは2つの領域をまたぐものなのか? 「ソーシャル」とは何か? ますます私有化が進む社会において、どのように公共圏の概念を定義し、その中で行動するのか? また、新進アーティストによるソーシャリー・エンゲイジド・アートへの関心の高まりに対して、メインストリームとオルタナティブの両タイプの文化機関はどのように対応しているのか?

講義、文献読解、ディスカッション、研究発表を通して、社会に関与する視覚文化とアーティストの役割の変化を、歴史的、イデオロギー的、批評的な枠組みの中で位置づける。可能であれば、ゲストスピーカーとの対話やオフサイト訪問も実施する。

SEAを学ぼうとする者にとってはぜひ受けてみたい授業だが、このショレット・ゼミナールは誰でもアクセスできるサイトが設けられており、ここまで公開していいのかと思えるほど情報満載だ。シラバスはもちろん、そこにあげられた必読文献・参考文献はpdfファイルまたはウェブページへのリンクが記され、学生は図書館で探したり、ネット検索する必要はない。たとえば、ルーシー・リパードの有名な「Six years: the dematerialization of the art object from 1966 to 1972」が本をスキャンしたpdfで読める。また、シラバスの8月31日にあるSome origin stories about socially engaged artをクリックすると、ショレット教授によるプレゼンテーションのスライド画面(113ページ)を閲覧できる。
授業の一環として、ゲストスピーカーとのセッションが行われると、その動画が数日後にアップされる。9月27日にクイーンズ美術館で行われた1時間にわたるスザンヌ・レイシーと学生とのディスカッションも、早速シェアされていた。
ページをスクロールしての最後に出てくる「Additional (Optional) Readings」の「Socially Engaged Art Reader」をクリックすると、なんと571ページに及ぶ参考資料のコンピレーションがpdfで現れ、これはダウンロードするしかないと思わせられる。

過去のゼミのアーカイブもあり、興味深い資料が山ほど埋蔵されている。この森に分け入ると出られなくなるようなサイトだ。

2021.10.15(秋葉美知子)

クライメート・フィクション(気候小説)コンテスト 続報

2021年09月23日

「Imagine 2200」のイメージイラスト

3月10日付のブログで、ストーリーテリングを通じて気候変動に取り組むソリューション・ラボ「Fix」が主催する、気候小説コンテスト「imagine 2200」を紹介したが、9月14日にその結果が発表された。85ヵ国から1,100編の応募があり、1等、2等、3等の受賞作と9編の入選作がウェブサイトに掲載されている。1等に選ばれた作品『Afterglow』は、富裕層が地球を見限って他の惑星へと逃げ出す中、一人の若い女性がパートナーから(仕事を得るために)一緒に旅立とうと誘われるが、瀕死の自然を再生しようとする人たちに出会い、地球に残ることを決意する物語だ。
12編の作品には、それぞれイメージイラストと短いリードコピーが付いているので、秋の夜長に、気になった作品を読んでみてはどうだろう?

Fixの気候小説コンテストの後追いをするように、「エクスティンクション・リベリオン(Extinction Rebellion)」(世界各国の政府に地球温暖化対策を求める、英国発の環境保護団体)が「The XR Solarpunk Storytelling Showcase」と題するコンテストを行っている。ソーラーパンクとは、気候変動や環境汚染など、地球の持続可能性に関わる主要な課題を人類が解決した未来の姿を描く、芸術・文学のムーブメントのこと。こちらのストーリーテリン・コンテストは、英語で2,500 wordsまでの短編小説を募集している。締切は10月11日。詳細はこちらから。

コロナ禍でフィールドワークや対面での実践が難しくなったために、ステイホームで可能な創作活動にスポットライトが当たっているのかもしれない。

2021.9.23(秋葉美知子)

地球温暖化に向き合うミュージアムの役割は?

2021年08月16日

国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は8月9日に発表した新しい報告書で、産業革命前と比べた世界の気温上昇が2021~40年に1.5度に達すると予測し、人間活動が温暖化に影響を与えていることは「疑う余地がない」と断定。熱波や豪雨、干ばつなど気候危機を回避するのは、我々の選択にかかっていると改めて確認している。

10月31日に始まるCOP26の開催地、英国グラスゴーのサイエンス・センターでは今、「Reimagining Museums for Climate Action」と題する国際デザイン・コンペで入選した8件のプロポーザルの展示が行われている(A&Sでは、建築家と景観デザインの専門家に呼びかけ、デザイン・コレクティブ「The Water Seeds-Sumida River Design Collective」を結成して、都市を流れる川をミュージアムに活用するプランで応募し、最終選考に残った)。このコンペ/展示のテーマは、What would it take for museums to become catalysts for radical climate action? ―ミュージアムが気候危機回避の行動(クライメート・アクション)の触媒となるには何が必要か? 気候変動という世界共通の危機に直面して、人々から信頼され、親しまれている機関であるミュージアムは、人々が正しい行動を選択するために積極的な役割を担うべきではないか、という考え方に基づいている。コンペ/展示の主催は、芸術・人文リサーチカウンシル(研究活動に対する英国の公的助成機関の一つ)で、民間からの支援は得ていない。

博物館に抗議するエクスティンクション・リベリオンの科学者 Extinction Rebellionのウェブサイトより

一方、時期を同じくしてロンドンの科学博物館では、「Our Future Planet」と題する無料の展覧会が、化石燃料の継続的使用を認めた上で、二酸化炭素を回収する技術によって温暖化を緩和する未来を提示している。メジャースポンサーについているのは大手石油会社のシェルである。さまざまな装置や製品が展示される中、ひときわ目を引くのが、アリゾナ州立大学のクラウス・ラックナー教授が開発した、樹皮のような紙の束を背の高い機械構造物に取り付けて大気中の二酸化炭素を吸収する「メカニカル・ツリー」だという。この展覧会は、5月の開始早々から問題視され、気候変動対策を求める環境団体「エクスティンクション・リベリオン」の科学者メンバーは、「SHELL OUT OF OUR MUSEUM」とプリントした白衣を着て、自分の体をケーブルでツリーにつなぎ、抗議行動を行った。さらに7月末、シェル社と科学博物館とのスポンサーシップ契約書に「博物館は スポンサーの信用や評判を落とすような行為をしてはならない」と規定されていたことが明らかになり、批判の声はより高まっている。ミュージアム側は、この規定はスポンサーシップ契約では一般的なもので、キュレーションに影響を与えることはないと言っているが、本当にそうだろうか。

ミュージアムは現実世界のさまざまな課題に深く関わり「文化変革のための能動的エージェント」に変身すべきだという考え方が、ミュージアム・コミュニティの間で広がりつつある現在(2019.9.25付ブログ参照)、スポンサー契約とミュージアムの役割との関係は、欧米ではますます論争・抗議の的となっている。

2021.8.16(秋葉美知子)

気候危機に向き合うアートを考えるためのサイト

2021年06月01日

地球は急速に温暖化しつつあり、人類の排出した温室効果ガスがそれに重要な役割を果たしているということは、1990年代から科学的なコンセンサスとなっている。地球温暖化は、気温を上昇させるだけでなく、異常気象の深刻化、海氷が溶けることによる海面上昇、野生生物の住みかや生態系の破壊など、さまざまな(悪)影響を引き起こす。
「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が2018年に公表した『1.5℃特別報告書』が、1.5℃を超える気温上昇が未来の地球にもたらすリスクを示したことで、危機回避策の緊急性が明らかになった。スウェーデンのグレタ・トゥーンベリさんはじめ、この状況に反応した若者たちが世界中で立ち上がっている。メディアの用語使いも、「地球温暖化(global warming)」では生ぬるいと、「気候変動(climate change)」、さらに気候危機(climate crisis)」「気候非常事態(climate emergency)」へと変化してきている。

もちろんアーティストも傍観してはいない。地球環境問題や気候危機にクリエイティブに向き合うアーティストやキュレーター、リサーチャーたちは数多く、情報集積とネットワーキングも進んでいる。
ここでは、そのプラットフォームを提供しているウェブサイトをいくつか紹介しよう。

 

アーティストの活動やインタビューをはじめ、アートと気候変動の接点を探る組織・団体へのリンクや、大学の学位プログラムやコースを紹介している(非常に数が多いのには驚く)。パフォーマンス、演劇、音楽、絵画、写真、文学など表現形式で記事検索できる。

 

 

 

サブタイトルは「アントロポセンへの創造的会話」。情報サイトというより、アーティスト、キュレーター、研究者などのメンバー(約150人)からの投稿によるエッセイを中心に、学び、考え、議論のトピックを提供するサイト。

 

アーティストの活動を丁寧に紹介するプログが中心だが、昨年始まったオリジナル公募企画としてのオンライン展覧会が興味深い。第1回のテーマは「ecoconsciousness」。https://ecoartspace.org/ecoconsciousnessからオンラインカタログで参加作品を見ることができる。

 

気候変動問題の解決と公正な未来をテーマとするウェブ・ジャーナルで、芸術文化は主要トピックのひとつ。サイト内サイトのソリューション・ラボ「Fix」のTopixから「Climate +Art & Culture」に進むと、気候正義にフォーカスしたアーティストの活動が読める。

 

 

2021.6.01(秋葉美知子)

米国のティーンズ向けファッション誌が気候危機に向き合う本を出版

2021年04月03日

NO PLANET B

現在、アート&ソサイエティ研究センターは、10代の若者が詩作とパフォーマンスによって、気候危機をクリエイティブに訴えるアートプログラム《クライメート・スピークス》の参加者を募集している。この企画は、ニューヨークの非営利団体Climate Museumが2018年に立ち上げた同名のプロジェクトをモデルとしているが、海外ではティーンズ対象にどんな取り組みが行われているかを調べていたら、老舗ファッション誌『ヴォーグ』の姉妹誌『ティーンヴォーグ』が目にとまった。このオンライン・マガジン、ガールズファッションやライフスタイルの雑誌かと思いきや、「スタイル(STYLE)」「文化(CULTURE)」「アイデンティティ(IDENTITY)」と並んで「政治(POLITICS)」というカテゴリーが設けられ、連日、記事が更新されている。「政治」のサブカテゴリーに「環境」もあり、3月24日には「Environmental Racism in Chicago Will be Made Worse by General Iron Facility」と題して、シカゴの高校生たちが、自分たちの住む地域に新しい工業施設が建設されるのは環境差別だとして反対の声を上げている記事が掲載されている(デモする若者たちの画像も素晴らしい)。

その『ティーンヴォーグ』に掲載された気候危機関連の記事を集めて一冊に編集したものが『No Planet B:A Teen Vogue Guide to the Climate Crisis』である。気候正義運動(climate justice movement)をメインテーマに、21人の寄稿者による28本の記事に4人の編集スタッフの新たな寄稿を加え、レポート、アクティビズム、インターセクショナリティ(交差性)※という3つの柱でまとめている。現状の報告、グレタ・トゥーンベリさんをはじめとする10代のアクティビストの活動や意見、若者がリーダーとなって政府や政治家に声を上げる気候ストライキ、環境破壊の責任を問う法廷闘争などのほか、気候変動の責任がほとんどないにもかかわらずその悪影響を最もシビアに受けるコミュニティの現実まで、多方面から問題を提起し、行動を促す内容になっている。

※人種、エスニシティ、国籍、ジェンダー、階級、セクシュアリティなど、さまざまな差別の軸が組み合わさり、相互に作用することで独特の抑圧が生じている状況

さすが、アメリカのジャーナリズムは違うなと感心したのだが、残念なニュースも伝わってきた。先月『ティーンヴォーグ』の新しい編集長に就任する予定だった27歳の女性ジャーナリストが、10年前にアジア人を蔑視するツイートをしていたことが再燃し、これまで2度にわたって謝罪したものの、辞任に追い込まれた。アジア系の人々に対する暴力やハラスメントに抗議する動きが全米で広がる中、編集スタッフからの突き上げもあり、責任を取らざるを得なかったようだ。新編集長はいずれ決まるだろうが、『ティーンヴォーグ』の攻めた政治欄には今後も注目したい。

2021.4.03(秋葉美知子)

米国でクライメート・フィクション(気候小説)コンテスト、公募中

2021年03月10日

「imagie2200」のウェブサイトより

深刻化する気候危機にアート/アーティストは何ができるか? そのチャレンジはさまざまなかたちで実践されている。

米国シアトルで1999年に設立されたNPO「Grist」は、”スモッグの中のかがり火”をキャッチフレーズに、環境に関するニュースや解説をオンラインで発信するとともに、「燃えない地球と吸い上げない未来」に向けて活動するさまざまな分野のイノベーターたちをネットワークしたソリューションズ・ラボ「Fix」を立ち上げている。

そのFixが、「imagine 2200」と題する気候小説コンテストを企画し、今後180年の間に、気候が安定的に推移することを思い描く短編小説を公募中だ。公募案内では、その意図を高らかに述べている。

今の世界は狂気じみ、危険が高まり、とんでもない未来が迫っています。私たちのニュースフィードは、否定、遅延、悲運に満ちていて、枕の中に向かって悲鳴を上げたくなります。でも、それは昔の話。Fixでは、クリーンで、グリーンで、公正な未来への道と、それを推進している人々の”新しい”物語を伝えています。私たちの使命は、より良い世界の物語を、魅力的なものにすることです。今すぐにでも手に入れたくなるように。

この目標を念頭に置いて、私たちは希望に満ちた前向きなフィクションの世界へ乗り出す決意をしました。まだ夢にも思っていない未来のビジョンを鼓舞し、気候に関する会話に多くの声を招き入れるために、さあ、この想像力の蜂起に参加して、地球の次章のページをめくるのを手伝ってください。

<主な応募要項>

  • エントリーは無料
  • 締め切りは、米国太平洋標準時の4月12日午後11時59分
  • 国籍・居住地不問、応募時に18歳以上であること
  • 応募作品は英文3,000~5,000 wordsの短編フィクションであること
  •  Adrienne Maree Brown, Morgan Jerkins, Kiese Laymon, and Sheree Renée Thomasほか、文学の専門家委員会により審査が行われる
  • 賞金は、一等3,000ドル、二等2,000ドル、三等1,000ドル。さらに9人のファイナリストに、それぞれ300ド  ルが贈られる
  • 最終選考に残った12作品はすべて、Fixのウェブサイト上のデジタルコレクションとして公開される。

西暦2200年までのどこかの時点に物語の舞台を設定し、そのとき人々はどのように空間を移動し、何を食べ、何を飲み、何を着て、どんなところに住んでいるのか? 人々は、土地や資源、そしてお互いの関係をどのように保っているのか? 未来の人々の先祖である私たちは、どのような世界を未来に託したいと思っているのか?

サイエンス・フィクションならぬクライメート・フィクションのコンテスト。
英語での創作が基本なので、日本人には応募のハードルが高いが、パリ協定に復帰したアメリカで、どんな作品が選ばれるのか、選考結果が楽しみだ。

https://grist.submittable.com/submit/

2021.3.10(秋葉美知子)