SEAラボブログ

英国で表現の自由についての実態調査実施中

2019年11月11日

ArtsProfessional ウェブサイトより

あいちトリエンナーレの「表現の不自由展・その後」をめぐって起こった一連のアクション、リアクションで、表原の自由と「検閲(センサーシップ)」が改めて問題になっている。「行政は芸術を支援しつつ、その活動から一定の距離を保ち、表現の自由と独立性を維持する」(お金は出すが、口出ししない)という「アームズ・レングス原則」発祥の国イギリスでも、センサーシップ(日本語の検閲より広い意味で使われる)が、自由な表現を妨げているようだ。”biting the hand that feeds(餌を与えてくれる手を噛むこと)”を恐れる態度は以前からあるが、近年、さまざまなプレッシャーから表現の自由への自己検閲が広範囲に見られるという。
その実態を把握しようと、芸術文化関係者に向けたイギリスの情報サイトArtsProfessionalでは、現在オンライン調査「Freedom of Expression Survey」を行っている。


主な質問を紹介すると:

●あなたは、芸術分野に影響を与える問題について、個人的な意見を、(直接の会話であれ、デジタルメディアであれ)公然と発言していますか?
「いつも」「たいてい」「時々」「めったにない」「全くない」から選択

●芸術分野に影響を与える問題について発言したために、直接またはデジタルメディアで、圧迫、叱責、脅迫、追放、強制、ネットトロール、嫌がらせ、いじめを感じたことはありますか?
「はい」「いいえ」

●以下の誰/どこからプレッシャーを感じたことがありますか? (いくつでも選択)

友達 同僚 クライアント 理事会 スポンサー 資金提供者 コミュニティグループ 運動団体 プレス/メディア ソーシャルメディア オーディエンス/一般大衆 規制当局 政府/地方自治体 その他(具体的に)

● 組織が公にしたくない状況に関して沈黙することの見返りとして、あなたに金銭を支払う「和解契約」を提供されたことがありますか?
「はい」「いいえ」

●次の文にどの程度同意しますか?
「強く反対」「反対」「どちらでもない」「同意する」「強く同意する」から選択

1. 個人的な見解や意見は、芸術文化の分野で働く他の人々からリスペクトされている。
2. 公的資金への依存は、重要な問題に関する開かれた議論を妨げる。
3. 芸術文化部門で働く人は、論争を招くような意見を持つと仕事から追放されるリスクがある。
4. ソーシャルメディアで敵意ある反発を受ける可能性があるため、私は自分の意見をオンラインでシェアすることをためらう。
5. 将来の資金調達を危うくする恐れがあるため、私は資金提供者の行動を公然と批判しない。
6. 芸術に携わる人々は、中道右派の政治的意見を認めるつもりはない。

●あなたは芸術的あるいは創造的な活動を計画する際に、論争のリスクを考慮していますか?
「はい」「いいえ」

●あなたの芸術的、あるいは創造的な活動に反応して、直接またはデジタルメディアで、圧迫、脅迫、追放、強制、ネットトロール、嫌がらせ、いじめを感じたことがありますか?
「はい」「いいえ」

●以下の誰/どこからプレシャーを感じたことがありますか?(いくつでも選択)

友達 同僚 クライアント 理事会 スポンサー 資金提供者 コミュニティグループ 運動団体 プレス/メディア ソーシャルメディア オーディエンス/一般大衆 規制当局 政府/地方自治体 その他(具体的に)

●こういった圧力のために、芸術作品、プログラミング、または計画を変更したことがありますか?
「はい」「いいえ」

●次の文にどの程度同意しますか?
「強く反対」「反対」「どちらでもない」「同意する」「強く同意する」から選択

1. 私の組織の理事会は、論争を招く可能性がありそうな創造的な活動について不必要に慎重だ。
2. アーティストのほうが芸術団体よりも自己検閲する傾向が強い。
3. 論争を覚悟しない組織は、わくわくするような創造的作品を提供しない。
4. 芸術文化部門は、重要な物事について発言するために、(どんな結果を招くにせよ)そのユニークな才能を利用する責任がある。


非常に単刀直入の設問。日本でも同様の調査を行って、結果を比較できないだろうか。

2019.11.11(秋葉美知子)

 

21世紀におけるミュージアムの役割とは? ICOM京都大会で新定義の採決が延期に

2019年09月25日

9月1日から7日まで、国際博物館会議(International Council of Museums 略称ICOM)の第25回大会が京都で開催され、「Museums as Cultural Hubs: The Future of Tradition(文化をつなぐミュージアム ―伝統を未来へ―)」をテーマに、120の国から4,600人が参加してさまざまな討議が行われた。なかでも今回最も注目されたのが、ミュージアムの新しい定義が提案されたことだった(ミュージアムの日本語訳は博物館だが、総合博物館、自然史・自然科学博物館、科学技術博物館、歴史博物館、美術館、文学館、動植物園など多様なタイプがあり、人によって特定のイメージで理解されている場合も多いと思うので、ここではミュージアムと記述する)。

本サイトの「参考文献」に紹介した『Museum Activism』で展開されているように、今「“ミュージアムの中立性”はもはや神話であり、不平等、不正義、地球環境の危機が深刻化するこの時代に、ミュージアムは(明確な目的に基づいて設立された“アイデンティティ・ミュージアム”だけでなく、すべてのミュージアムは)、現実世界のさまざまな課題に深く関わり「文化変革のための能動的エージェント」へ変身すべきだという考え方が、ミュージアム・コミュニティの間で広がりつつある。
ICOM京都大会での新しい定義の提案も、この動きに呼応するように、ミュージアムの社会的役割、人々とのエンゲイジメントを強調するものとなっていた。

現行のICOMによるミュージアムの定義は2007年に第22回大会で採択されたもので、以下のように非常にシンプルだ。

ミュージアムは、社会とその発展のために奉仕する、非営利で常設の、一般に公開される機関であり、教育、研究、楽しみを目的として、人類とその環境の有形および無形の遺産を取得、保存、調査、伝達、展示する。

今回、ICOM内の「ミュージアムの定義・展望・可能性委員会」が3年間にわたって検討した結果、文章化された新しい定義は、従来のものを大幅に改訂するものだった。

ミュージアムは、過去と未来について重要な意味を持つ対話のための、民主的、包摂的かつ多声的な空間である。ミュージアムは現在の紛争や課題を認識し、それらに取り組みつつ、社会の委託のもと、人工品や[動植物・鉱物などの]標本を保管し、将来の世代のために多様な記憶を守るとともに、すべての人々に遺産に対する平等な権利と平等なアクセスを保証する。
ミュージアムは営利を目的としない。ミュージアムは参加型で透明性があり、多様なコミュニティと積極的に連携して、世界の知識を収集、保存、研究、解釈、展示、強化し、人間の尊厳と社会正義、世界の平等、健全な地球に貢献することを目指している。

この定義案は9月7日の臨時総会での採択を目指したが、「観念的すぎる」「空虚なバズワードの羅列だ」「教育機能が軽視されていて、公的支援を受けにくくなる」などの反対論が出ていた。総会では、議論が尽くされていないという慎重論が優勢となり、採決延期を求める動議が投票にかけられ7割の賛成で可決。定義の改訂は見送られた。
しかし、これを受けたICOMのスアイ・アクソイ会長は、この投票は議論の終結を意味するのではなく、“新たな章”の始まりだと強調し、今後も再定義のプロセスを進めていくと語っている。

この論争の中、ミュージアム・コミュニティでも動きが起こっている。イギリスの博物館協会(Museum Association)は、10月3~5日にブライトンで開催する年次大会で「ミュージアムとは何か?」を問うセッションを行う。パネリストには、ICOM定義委員会の議長を務めるジェッテ・サンダール、芸術と遺産教育に取り組む非営利組織Culture&のアーティスティック・ディレクター、エロール・フランシス、『Museum Activism』の編者でレスター大学教授のリチャード・サンデルらが予定されている。イギリスは、米国、オランダとともに定義の改訂に前向きな国の一つ(フランス、イタリア、ドイツ、カナダ、ロシアは異議を唱えている)。ここでの議論にも注目したい。

2019.9.25(秋葉美知子)

ア・ブレイド・オブ・グラス2020年度フェローシップの募集概要

2019年07月23日

A Blade of GrassのFacebookより

ソーシャリー・エンゲイジド・アートに取り組む米国のアーティストに対象を絞り、プロジェクト資金の助成と活動支援を行っているアートNPO、ア・ブレイド・オブ・グラス(ABOG)が、2020年のフェローシップ募集を開始した(2019年10月16日締め切り)。このプログラム(A Blade of Grass Fellowship Program)は、アーティストが主導するSEAプロジェクトに、かなり自由に使える2万ドルの資金をはじめ、ネットワーキングの機会や広報宣伝の支援などを提供するもの。2014年に始まり、今ではSEAに関心のあるアーティストなら誰もが取りたい助成金になっているようだ。

応募資格は、米国民または合法的な就労資格を持つ米国在住者に限られているが、このプログラムのガイドラインは米国におけるソーシャリー・エンゲイジド・アートの意味合いを知る上で大変参考になる。で、以下、ABOGのウェブサイトに掲載された応募要領より、主要な部分を紹介したい。


 

■フェローシップの概要

私たちは、ソーシャリー・エンゲイジド・アーティストが、より公正で、公平で、持続可能で、楽しく、思いやりのある未来を創造するために、有意義な関与をする力を信じています。 このことは、アーティストが芸術とは関係のない多様なパートナーやコミュニティとともに活動し、相互信頼に基づいた関係を発展させるために、時間をかけ注意を払わなければならないことを意味します。私たちは、このタイプの活動には既成のロードマップや保証された成果はないことを理解しており、アーティストがこれらのプロセスや関係性をどのように舵取りするかを知ることに力を注いでいます。

私たちのフェローシップ・プログラムは、勇気あるアーティストが、一見解決困難な社会問題に光を当て、オーディエンスに刺激を与え、人々が長期的なソーシャル・チェンジの活動に参加し、それを持続するよう活気づける交換(exchanges)、体験(experiences)、構造(structures)を生み出すことを支援するものです。これは困難で時間のかかる、組織的、知的、そして感情的な仕事です。

私たちは共同調査の要素を組み込んだ比較的制限のない資金を提供することを約束します。 さらに、アーティストが書く実施報告に代わるものとして、フィールドリサーチを行います。これはアーティストによって明確化された目的と調査の範囲、そしてプロジェクト参加者の視点に基づいて行うものです。

直接的なアーティスト支援に加えて、ABOGのもう一つの主要な目的は、ソーシャリー・エンゲイジド・アートの「見えない」部分を可視化することです。 私たちはこれを、ドキュメンタリー映画、出版物、ウェブコンテンツ、そしてパブリック・プログラムを通して行います。 ただし、これらの内容についてのコラボレーションはフェローシップの義務ではなく、相互利益に基づく個別の契約で行います。

■選定基準

このフェローシップは、世界でソーシャル・チェンジを起こすために素晴らしい芸術を使っているアーティストを支援することを意図しています。提案書を審査する際には、芸術的価値、ソーシャル・チェンジを実現するためのプラン、そしてアーティストがエンゲイジメントを実践する質を検討します。

あなたのプロジェクトがフェローシップに適合しているかどうか。以下について自問してください。

  • 私のプロジェクトがソーシャル・チェンジを起こすことができると説明できるか?
  • そのプロジェクトは何らかのかたちで、不公平な権力構造に挑戦し、それを変革、あるいは反転させるだろうか?
  • ますます分極する政治的状況において、そのプロジェクトはより大きな謙虚さ、集団性、コミュニケーションand/orケアの可能性を高めるだろうか?
  • そのプロジェクトは、参加者やオーディエンスが想像力に富んだ、あるいは元気を回復させる見方や行動をするのを助けるだろうか?
  • そのプロジェクトは、参加者が、固定された社会構造に積極的に影響を及ぼし、未来への大きな希望を生み出すことができると感じるような行動形態を提案しているか?

2019.7.23(秋葉美知子)

アメリカの公的芸術文化助成

2019年04月27日

出所:https://www.giarts.org/index.php/article/public-funding-arts-2017

前回の投稿で、米国の財団による芸術文化助成について紹介したが、今回は参考までに公的助成を見てみよう。
米国の公的芸術文化助成は、連邦政府機関の全米芸術基金(National Endowment for the Arts =NEA)によるものと、地方政府予算によるものに分けられる。これは日本でも文化庁と都道府県・市区町村がそれぞれ芸術文化予算を持っているのと同様だ。米国の仕組みは、NEAは全米規模の独自プログラムを実施すると同時に、総助成予算の約40%を交付金のようなかたちで各州の受け皿(ステート・アーツ・エージェンシー=SAAと総称される組織。それぞれ、○○アーツカウンシル、○○アーツコミッションなど個別の名称を持つ)に配分している。SAAは、このNEAからの分配金に州政府からの予算を加えて、アーティストやアートNPO支援、アート教育、コミュニティ活性化、パブリック・アートなどさまざまな事業を行っている。さらに各州の地方自治体(市や郡)にも総数4,500にのぼる芸術文化組織があり(ローカル・アーツ・エージェンシー=LAAと呼ばれる)(注)、地方政府からの予算措置や民間からの支援を得ながら活動している。
しかし、米国では芸術文化は基本的に私的領域と見なされ、公的支援には消極的で、それは政府予算の規模から明らかだ。2017年度(米国の会計年度は前年10月から当年9月まで)のNEAの予算は約165億円、SAAに対する州の予算措置は約375億円、LAAに対する地方政府の予算措置は約910億円、合計約1,450億円である。この数字は、メジャーな1,000財団による1万ドル以上の助成金だけを集計した総額が約3,300億円(2016年)だったことと比較すると、半分以下にすぎない。それでもトランプ政権は、発足以来予算教書提出のたびに、NEAと姉妹機関NEH(全米人文科学基金)の廃止を盛り込んでいる。

出所:「地方における文化行政の状況について(平成28年度)」(文化庁)

対して、日本の公的芸術文化助成はどのくらいかというと、NEAにほぼ相当する文化庁の予算は2016年度で1,040億円(NEAの約6倍)、都道府県・市区町村の芸術文化関係経費は4,489億円で、合計5,529億円。この数字はピーク時(1993年)の約半分だが、これでも米国の同様の公的支出の約3.8倍になる。

(注)米国のローカル・アーツ・エージェンシーは、3割が自治体の直営、7割がNPO。自治体直営組織では予算のうち公費の割合が59%なのに対し、NPOでは17%にとどまる。

 

 

日本の状況について詳しくは、
「文化芸術関連データ集」(文化庁)
http://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/seisaku/15/03/pdf/r1396381_11.pdf
「地方における文化行政の状況について(平成28年度)」(文化庁)
http://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/tokeichosa/chiho_bunkagyosei/pdf/r1393030_01.pdf

2019.4.27(秋葉美知子)

寄付大国アメリカの芸術文化助成

2019年04月15日

「gia reader」 2019年冬号

アートNPOにとって、プロジェクトを計画するときに、受給できそうな助成金探しは欠かせない。日本には、芸術文化支援に積極的な資金提供者(グラントメーカー)がまだまだ少ないが、寄付大国アメリカではどうなのだろう?
米国・カナダの芸術文化助成団体を構成員とするネットワーク組織「Grantmakers in the Arts」が発行するマガジン「gia reader」に、米国の財団による芸術文化助成のトレンドに関する記事があった。それによると、メジャーな1,000財団による1万ドル以上の助成金(2016年)のうち、芸術文化に向けられたのは9%で、教育(26%)、健康(26%)、地域・経済開発(12%)、福祉(11%)に次いで5番目。その規模は、20,525件、総額約30億ドルだったという。件数では、1万~2万5,000ドルの助成が全体の約4割を占めるが、単純に平均すると、1件あたり約146,000ドル(約1,600万円)になる。ちなみに、2016年に最も多額の芸術文化助成をした財団は、カーネギー・M・メロン財団で、267件、約2億860万ドル(約230億円)だった。
Grantmakers in the ArtsのウェブサイトのNewsページには、芸術文化支援に関連する幅広い情報が掲載されており、SEA関連の記事も多く、アメリカの今の状況を知ることができる。

2019.4.15(秋葉美知子)

「FIELD」の最新号は世界各地のアートとアクティビズムの現状をレポート

2019年03月06日

SEAの論客として知られるグラント・ケスター(美術史家、UCサンディエゴ教授)が2015年春に「A Journal of Socially-Engaged Art Criticism」というサブタイトルで創刊したウェブ・ジャーナル「FIELD」は、毎号読み応えのあるエッセイが掲載されていて、SEA分野の理論と実践の世界的動向を知るうえで大変参考になる。2017年の第7号第8号では、「Japan’s Social Turn(日本の社会的転回)」をテーマに、歴史的考察や震災後のアーティストの活動、地域再生に関わるアートプロジェクト、ろくでなし子のメディア・アクティビズム、A3BC: 反戦・反核・版画コレクティブなど、さまざまな視点から日本の社会的転回を取り上げていた。

その最新号が、第12・13合併号として3月初めに発刊された。「Art, Anti-Globalism, and the Neo-Authoritarian Turn(アート、反グローバリズム、新権威主義的転回)」をテーマに掲げ、アーティスト/アクティビスト/批評家、そしてNYのクイーンズ・カレッジで「ソーシャル・プラクティス・クイーンズ」という大学院プログラムを指導する教育者でもあるグレゴリー・ショレットが、世界の仲間(アーティスト、アクティビスト、歴史家、批評家、キュレーター)に呼びかけて集めた32編のエッセイが収録されている。トランプとブレクジットに象徴される反動的ナショナリズムが世界各地で進行している中、その権威主義的ルール、抑圧のシステムに対して、ソーシャリー・エンゲイジド・アートがどのように対抗しているかを現場からレポートし、アクティビストとアーティストの連携や交換の可能性を開こうという企画である。

コンテンツは地域別にグルーピングされており、ケスターによる編集長コメントと、ショレットによるイントロダクションを読んだ後、興味のある記事を検索するとよいかもしれない。ヨーロッパと北アメリカからの寄稿が多いが、東アジアからも、朴槿恵大統領を退陣に追い込んだソウル光化門広場でのロウソク集会について韓国人キュレーター、ヘン・ギル・ハンが書いたエッセイや、中国のアーティスト、ジェン・ボーによる「The Current State of Socially Engaged Art in Mainland China」と題するエッセイなどが収録されている。

2019.3.6(秋葉美知子)

スザンヌ・レイシー初の大規模回顧展が4月からサンフランシスコで開催

2019年01月22日

サンフランシスコ近代美術館のウェブサイトより

イエルバ・ブエナ芸術センターのウェブサイトより

米国LAを拠点とするアーティスト、スザンヌ・レイシーは、1970年代からフェミニスト・アートを牽引し、90年代には「ニュージャンル・パブリック・アート」という用語をつくり出し、ソーシャリー・エンゲイジド・アートのパイオニアとして、また教育者、著述家として、実践と理論の両面で長いキャリアを築いている。その大規模な回顧展が、4月20日から8月4日まで、サンフランシスコ近代美術館とその隣に立地するイエルバ・ブエナ芸術センターで開催される。

パブリック・アートやSEA(あるいはソーシャル・プラクティス)の分野ではすでに大御所的存在のレイシーだが、メジャーな美術館でのソロ展覧会は初めて。それだけに、期待も高まる。というのも、レイシーのような、美術館での展覧会を主目的に作品制作をしているのではなく、社会的な「プロセス」に重心を置くアーティストが、自身の過去のプロジェクトを美術館のハコの中でどのようにプレゼンテーションするのか? 彼女のことだから、単に過去のアートワークの記録写真やビデオの展示・上映、インスタレーションの再構成などで終わるとは思えない。

レイシーは、2017年2月に森美術館で行われた国際シンポジウム「現代美術館は、新しい『学び』の場となり得るか?」の基調講演で、「ソーシャル・プラクティス・アーティストと美術館」をテーマに、自身の経験を事例に非常に重要な問題提起をしていた。

「美術館が他の場所で発生したプロジェクトを見せるとき、さまざまな問題が出てきます。ひとつは、そのアートワークが最初の場所でもたらした感情的、政治的インパクトを美術館でどのように再現できるか、あるいはそもそも再現は可能なのか。もうひとつは、その実践における社会的、交渉的側面がどのように示されるかです」(注1)

美術館の展示の作法は現場での実践とは違う、オーディエンスも違う。
「コミュニティに深く入り込んだ活動は、美術館の美学的環境に適しているのか? 美学に重点を置く場合は、コミュニティの参加者を作品の素材として利用しているのではないか? そのアートワークが活動のレガシーを失わずに美術館に収蔵され、展示されるにはどんな方法があるのか。そのアートワークをさまざまな場所で紹介するために必要なコミュニケーションの形式には、どんなものがあるでしょうか」(注2)
その答えは、「We Are Here」というタイトルにあるのかもしれない。

注1 森美術館, MAM Documents 003『現代美術館は、新しい「学び」の場となりえるか? エデュケーションからラーニングへ』, 2018, p.41
注2 同書、p.53

2019.1.22(秋葉美知子)

クリエイティブ・タイムが初めてパブリック・アートワークを公募

2018年12月08日

Creative Timeのウェブサイトより

過去40年以上にわたって、都市の公共空間を舞台に、アーティストの挑戦的な創造活動をプロデュースしてきたニューヨークのNPO、クリエイティブ・タイムが初めて、アーティストから企画提案を募集している。クリエイティブ・タイムと言えば、2011年に世界のソーシャリー・エンゲイジド・アートを概観する展覧会「リビング・アズ・フォーム」展をオーガナイズしたことでも知られる。このNPOがどんな公募をしているか、そのOverviewを和訳してみた。


この冬、クリエイティブ・タイムは、アーティストからパブリック・アートワークのプロポーザルを募集します。この公募は、ニューヨークを拠点に活動中で、キャリアにおいて重要な時期にあり、公的コミッション、あるいはメジャーな芸術組織からの十分な支援を受けたことのないアーティストを対象としています。私たちは、型にはまらない発表形態をとり、喫緊の社会問題を取り上げ、開かれた討論を生み出すようなアイディアに最も関心をもっています。プロポーザルは12月10日から1月18日に受け付け、選ばれたプロジェクトは2019年の春/夏にニューヨークで実施します。

私たちは、大胆かつ野心的なアイディアを歓迎します。サイズやスケールに規定はありません。控えめな提案からドラマティックな行為まで可能です。私たちは、あなたのアートワークがいかに現在の問題や社会的コンテクストと取り組んでいるかを知りたいのです。それは、特定の関心事に、コミュニティに、あるいは歴史に応えて考えられたものなのか? それが何であろうと、そのアイディアはタイムリーで、人々の批評的意見交換の火付け役となる可能性をもっていなければなりません。

この公募は、アーティストにとって、公共領域において新しいアイディアを実験するとともに、価値あるリソースとしてクリエイティブ・タイムを利用する好機となるはずです。私たちには、40年以上にわたって、アーティストとそのアイディアを、危険負担、議論の促進、制作のノウハウ、問題解決を通じて支援してきた歴史があります。つまり、私たちはあなたのためにあるのです。

クリエイティブ・タイムには、新進アーティストでも著名なアーティストでも、特定のメディアにおいて、あるいはそれを超えて、自身のプロセスを先鋭的に変化させようとする人たちを支持してきたレガシーがあります。この公募は、その歴史に応えるものであり、全てのキャリア段階のアーティストたちの、現代の重大な問題に対するアイディアの豊かさと重要性に光を当てるために企画したものです。


制作予算は5万ドルが上限で、アーティスト・フィーも支給されるという。来年の2月に発表される選考結果が楽しみだ。第1回の募集はニューヨーク都市圏在住のアーティストに限定されているが、今後地域を拡張する予定もあるようだ。

2018.12.8(秋葉美知子)

オペラ界もSEAに接近?

2018年11月22日

NEXT CITYのウェブサイトより

米国のウェブ・ジャーナル「NEXT CITY」に、「今日的社会課題にエンゲイジすることは、オペラを救えるか?」と題する興味深い記事があった。オペラというと、堅苦しく、贅沢で、エリート好みの芸術様式というイメージがあり、近年、オペラ公演はチケット販売がだんだん難しくなっている。アメリカ3大オペラ・ハウスの一つ、シカゴのリリック・オペラでも、経営側がオーケストラ団員に対して、人員の削減、給与減額、公演期間の短縮などを求めたのに対し、楽団員たちは10月9日から5日間ストライキを行った。交渉の結果、いくつかの合意のもとでストライキは終結したが、根本的な問題は依然として残っている。

そんな状況のなか、オペラの制作者側が、よりカジュアルな舞台設定で、ソーシャリー・エンゲイジド・オペラに挑戦しているという。その事例としてあげられているのが、ニューヨークの建築家と作曲家のコラボレーション「The Mile-Long Opera」と、カリフォルニア大学サンディエゴ校のグループによる室内オペラ「Inheritance」だ。

「The Mile-Long Opera」は、今では観光名所にもなっているマンハッタンの1.45マイルにわたる高架型都市公園「ハイライン」の上に、市内各地区の合唱団から参加した1,000人の歌手が並んで、ニューヨーカーの生活を歌い、語るというパフォーマンス。歌詞と語りは、さまざまな職業のニューヨーカー数百人に対する「あなたにとっての午後7時の意味は?」というインタビューをもとに書かれたもの。10月3日から8日まで、毎晩7時から行われたこの屋外オペラ、約15,000人のオーディエンス(無料・予約制)が来場し、歌手たちの間を歩きながら歌と語りを聞いたという。

「Inheritance」は、銃による暴力というアメリカ社会で深刻化するテーマを扱っている。ウィンチェスター銃のビジネスで築いた夫の財産を相続した未亡人、サラ・ウィンチェスターが、迷宮のような自邸で、その銃によって殺された人々の霊に呪われ続けたという実話に基づき、全米で頻発する銃乱射事件と重ね合わせる新作オペラだ。10月24日から27日に、UCサンディエゴのExperimental Theater of the Conrad Prebys Music Centerで初演された。公演後にアフタートークなどのイベントは予定されていなかったにもかかわらず、観客は1時間以上その場に残って話し合っていたという。

オペラを公共の場に開いたり、社会問題に切り込むこのような試みは、保守的なオペラ界に、あるいは混迷する社会にどんな影響を与えるだろうか。

2018.11.22(秋葉美知子)