クライメート・フィクション(気候小説)コンテスト 続報
3月10日付のブログで、ストーリーテリングを通じて気候変動に取り組むソリューション・ラボ「Fix」が主催する、気候小説コンテスト「imagine 2200」を紹介したが、9月14日にその結果が発表された。85ヵ国から1,100編の応募があり、1等、2等、3等の受賞作と9編の入選作がウェブサイトに掲載されている。1等に選ばれた作品『Afterglow』は、富裕層が地球を見限って他の惑星へと逃げ出す中、一人の若い女性がパートナーから(仕事を得るために)一緒に旅立とうと誘われるが、瀕死の自然を再生しようとする人たちに出会い、地球に残ることを決意する物語だ。
12編の作品には、それぞれイメージイラストと短いリードコピーが付いているので、秋の夜長に、気になった作品を読んでみてはどうだろう?
Fixの気候小説コンテストの後追いをするように、「エクスティンクション・リベリオン(Extinction Rebellion)」(世界各国の政府に地球温暖化対策を求める、英国発の環境保護団体)が「The XR Solarpunk Storytelling Showcase」と題するコンテストを行っている。ソーラーパンクとは、気候変動や環境汚染など、地球の持続可能性に関わる主要な課題を人類が解決した未来の姿を描く、芸術・文学のムーブメントのこと。こちらのストーリーテリン・コンテストは、英語で2,500 wordsまでの短編小説を募集している。締切は10月11日。詳細はこちらから。
コロナ禍でフィールドワークや対面での実践が難しくなったために、ステイホームで可能な創作活動にスポットライトが当たっているのかもしれない。
2021.9.23(秋葉美知子)
地球温暖化に向き合うミュージアムの役割は?
国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は8月9日に発表した新しい報告書で、産業革命前と比べた世界の気温上昇が2021~40年に1.5度に達すると予測し、人間活動が温暖化に影響を与えていることは「疑う余地がない」と断定。熱波や豪雨、干ばつなど気候危機を回避するのは、我々の選択にかかっていると改めて確認している。
10月31日に始まるCOP26の開催地、英国グラスゴーのサイエンス・センターでは今、「Reimagining Museums for Climate Action」と題する国際デザイン・コンペで入選した8件のプロポーザルの展示が行われている(A&Sでは、建築家と景観デザインの専門家に呼びかけ、デザイン・コレクティブ「The Water Seeds-Sumida River Design Collective」を結成して、都市を流れる川をミュージアムに活用するプランで応募し、最終選考に残った)。このコンペ/展示のテーマは、What would it take for museums to become catalysts for radical climate action? ―ミュージアムが気候危機回避の行動(クライメート・アクション)の触媒となるには何が必要か? 気候変動という世界共通の危機に直面して、人々から信頼され、親しまれている機関であるミュージアムは、人々が正しい行動を選択するために積極的な役割を担うべきではないか、という考え方に基づいている。コンペ/展示の主催は、芸術・人文リサーチカウンシル(研究活動に対する英国の公的助成機関の一つ)で、民間からの支援は得ていない。
一方、時期を同じくしてロンドンの科学博物館では、「Our Future Planet」と題する無料の展覧会が、化石燃料の継続的使用を認めた上で、二酸化炭素を回収する技術によって温暖化を緩和する未来を提示している。メジャースポンサーについているのは大手石油会社のシェルである。さまざまな装置や製品が展示される中、ひときわ目を引くのが、アリゾナ州立大学のクラウス・ラックナー教授が開発した、樹皮のような紙の束を背の高い機械構造物に取り付けて大気中の二酸化炭素を吸収する「メカニカル・ツリー」だという。この展覧会は、5月の開始早々から問題視され、気候変動対策を求める環境団体「エクスティンクション・リベリオン」の科学者メンバーは、「SHELL OUT OF OUR MUSEUM」とプリントした白衣を着て、自分の体をケーブルでツリーにつなぎ、抗議行動を行った。さらに7月末、シェル社と科学博物館とのスポンサーシップ契約書に「博物館は スポンサーの信用や評判を落とすような行為をしてはならない」と規定されていたことが明らかになり、批判の声はより高まっている。ミュージアム側は、この規定はスポンサーシップ契約では一般的なもので、キュレーションに影響を与えることはないと言っているが、本当にそうだろうか。
ミュージアムは現実世界のさまざまな課題に深く関わり「文化変革のための能動的エージェント」に変身すべきだという考え方が、ミュージアム・コミュニティの間で広がりつつある現在(2019.9.25付ブログ参照)、スポンサー契約とミュージアムの役割との関係は、欧米ではますます論争・抗議の的となっている。
2021.8.16(秋葉美知子)
気候危機に向き合うアートを考えるためのサイト
地球は急速に温暖化しつつあり、人類の排出した温室効果ガスがそれに重要な役割を果たしているということは、1990年代から科学的なコンセンサスとなっている。地球温暖化は、気温を上昇させるだけでなく、異常気象の深刻化、海氷が溶けることによる海面上昇、野生生物の住みかや生態系の破壊など、さまざまな(悪)影響を引き起こす。
「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が2018年に公表した『1.5℃特別報告書』が、1.5℃を超える気温上昇が未来の地球にもたらすリスクを示したことで、危機回避策の緊急性が明らかになった。スウェーデンのグレタ・トゥーンベリさんはじめ、この状況に反応した若者たちが世界中で立ち上がっている。メディアの用語使いも、「地球温暖化(global warming)」では生ぬるいと、「気候変動(climate change)」、さらに気候危機(climate crisis)」「気候非常事態(climate emergency)」へと変化してきている。
もちろんアーティストも傍観してはいない。地球環境問題や気候危機にクリエイティブに向き合うアーティストやキュレーター、リサーチャーたちは数多く、情報集積とネットワーキングも進んでいる。
ここでは、そのプラットフォームを提供しているウェブサイトをいくつか紹介しよう。
アーティストの活動やインタビューをはじめ、アートと気候変動の接点を探る組織・団体へのリンクや、大学の学位プログラムやコースを紹介している(非常に数が多いのには驚く)。パフォーマンス、演劇、音楽、絵画、写真、文学など表現形式で記事検索できる。
サブタイトルは「アントロポセンへの創造的会話」。情報サイトというより、アーティスト、キュレーター、研究者などのメンバー(約150人)からの投稿によるエッセイを中心に、学び、考え、議論のトピックを提供するサイト。
アーティストの活動を丁寧に紹介するプログが中心だが、昨年始まったオリジナル公募企画としてのオンライン展覧会が興味深い。第1回のテーマは「ecoconsciousness」。https://ecoartspace.org/ecoconsciousnessからオンラインカタログで参加作品を見ることができる。
気候変動問題の解決と公正な未来をテーマとするウェブ・ジャーナルで、芸術文化は主要トピックのひとつ。サイト内サイトのソリューション・ラボ「Fix」のTopixから「Climate +Art & Culture」に進むと、気候正義にフォーカスしたアーティストの活動が読める。
2021.6.01(秋葉美知子)
米国のティーンズ向けファッション誌が気候危機に向き合う本を出版
現在、アート&ソサイエティ研究センターは、10代の若者が詩作とパフォーマンスによって、気候危機をクリエイティブに訴えるアートプログラム《クライメート・スピークス》の参加者を募集している。この企画は、ニューヨークの非営利団体Climate Museumが2018年に立ち上げた同名のプロジェクトをモデルとしているが、海外ではティーンズ対象にどんな取り組みが行われているかを調べていたら、老舗ファッション誌『ヴォーグ』の姉妹誌『ティーンヴォーグ』が目にとまった。このオンライン・マガジン、ガールズファッションやライフスタイルの雑誌かと思いきや、「スタイル(STYLE)」「文化(CULTURE)」「アイデンティティ(IDENTITY)」と並んで「政治(POLITICS)」というカテゴリーが設けられ、連日、記事が更新されている。「政治」のサブカテゴリーに「環境」もあり、3月24日には「Environmental Racism in Chicago Will be Made Worse by General Iron Facility」と題して、シカゴの高校生たちが、自分たちの住む地域に新しい工業施設が建設されるのは環境差別だとして反対の声を上げている記事が掲載されている(デモする若者たちの画像も素晴らしい)。
その『ティーンヴォーグ』に掲載された気候危機関連の記事を集めて一冊に編集したものが『No Planet B:A Teen Vogue Guide to the Climate Crisis』である。気候正義運動(climate justice movement)をメインテーマに、21人の寄稿者による28本の記事に4人の編集スタッフの新たな寄稿を加え、レポート、アクティビズム、インターセクショナリティ(交差性)※という3つの柱でまとめている。現状の報告、グレタ・トゥーンベリさんをはじめとする10代のアクティビストの活動や意見、若者がリーダーとなって政府や政治家に声を上げる気候ストライキ、環境破壊の責任を問う法廷闘争などのほか、気候変動の責任がほとんどないにもかかわらずその悪影響を最もシビアに受けるコミュニティの現実まで、多方面から問題を提起し、行動を促す内容になっている。
※人種、エスニシティ、国籍、ジェンダー、階級、セクシュアリティなど、さまざまな差別の軸が組み合わさり、相互に作用することで独特の抑圧が生じている状況
さすが、アメリカのジャーナリズムは違うなと感心したのだが、残念なニュースも伝わってきた。先月『ティーンヴォーグ』の新しい編集長に就任する予定だった27歳の女性ジャーナリストが、10年前にアジア人を蔑視するツイートをしていたことが再燃し、これまで2度にわたって謝罪したものの、辞任に追い込まれた。アジア系の人々に対する暴力やハラスメントに抗議する動きが全米で広がる中、編集スタッフからの突き上げもあり、責任を取らざるを得なかったようだ。新編集長はいずれ決まるだろうが、『ティーンヴォーグ』の攻めた政治欄には今後も注目したい。
2021.4.03(秋葉美知子)
米国でクライメート・フィクション(気候小説)コンテスト、公募中
深刻化する気候危機にアート/アーティストは何ができるか? そのチャレンジはさまざまなかたちで実践されている。
米国シアトルで1999年に設立されたNPO「Grist」は、”スモッグの中のかがり火”をキャッチフレーズに、環境に関するニュースや解説をオンラインで発信するとともに、「燃えない地球と吸い上げない未来」に向けて活動するさまざまな分野のイノベーターたちをネットワークしたソリューションズ・ラボ「Fix」を立ち上げている。
そのFixが、「imagine 2200」と題する気候小説コンテストを企画し、今後180年の間に、気候が安定的に推移することを思い描く短編小説を公募中だ。公募案内では、その意図を高らかに述べている。
今の世界は狂気じみ、危険が高まり、とんでもない未来が迫っています。私たちのニュースフィードは、否定、遅延、悲運に満ちていて、枕の中に向かって悲鳴を上げたくなります。でも、それは昔の話。Fixでは、クリーンで、グリーンで、公正な未来への道と、それを推進している人々の”新しい”物語を伝えています。私たちの使命は、より良い世界の物語を、魅力的なものにすることです。今すぐにでも手に入れたくなるように。
この目標を念頭に置いて、私たちは希望に満ちた前向きなフィクションの世界へ乗り出す決意をしました。まだ夢にも思っていない未来のビジョンを鼓舞し、気候に関する会話に多くの声を招き入れるために、さあ、この想像力の蜂起に参加して、地球の次章のページをめくるのを手伝ってください。
<主な応募要項>
- エントリーは無料
- 締め切りは、米国太平洋標準時の4月12日午後11時59分
- 国籍・居住地不問、応募時に18歳以上であること
- 応募作品は英文3,000~5,000 wordsの短編フィクションであること
- Adrienne Maree Brown, Morgan Jerkins, Kiese Laymon, and Sheree Renée Thomasほか、文学の専門家委員会により審査が行われる
- 賞金は、一等3,000ドル、二等2,000ドル、三等1,000ドル。さらに9人のファイナリストに、それぞれ300ド ルが贈られる
- 最終選考に残った12作品はすべて、Fixのウェブサイト上のデジタルコレクションとして公開される。
西暦2200年までのどこかの時点に物語の舞台を設定し、そのとき人々はどのように空間を移動し、何を食べ、何を飲み、何を着て、どんなところに住んでいるのか? 人々は、土地や資源、そしてお互いの関係をどのように保っているのか? 未来の人々の先祖である私たちは、どのような世界を未来に託したいと思っているのか?
サイエンス・フィクションならぬクライメート・フィクションのコンテスト。
英語での創作が基本なので、日本人には応募のハードルが高いが、パリ協定に復帰したアメリカで、どんな作品が選ばれるのか、選考結果が楽しみだ。
https://grist.submittable.com/submit/
2021.3.10(秋葉美知子)
ABOGがコロナ危機を生き残るために大幅リストラ
新型コロナウイルスの感染拡大によるロックダウンとそれに伴う経済活動の落ち込みで、米国のアートNPOは活動の縮小、さらには存続の危機に直面している。ニューヨークを拠点に、ソーシャリー・エンゲイジド・アート支援に特化した活動で定評のあるNPO、ア・ブレイド・オブ・グラス(ABOG)も、この状況に際して、中心事業のフェローシップ・プログラムの廃止、スタッフの解雇など、大幅なリストラを行うという。
アート&ソサイエティ研究センターは昨年からABOGと協力関係を結び、このNPOが年2回発行しているSEA専門マガジンの日本語版を編集・公開してきた。第3号の日本語版刊行を目前にこのニュースを知って、私たちは驚きを禁じ得なかった。
ABOGのフェローシップ・プログラムは、米国のアーティストが主導するSEAプロジェクトに、かなり自由に使える2万ドルの資金をはじめ、ネットワーキングの機会や広報の支援などを提供するもので、毎年8人/組が公募によって選ばれてきた。2014年に始まり、今ではSEAに関心のあるアーティストなら誰もが取りたい助成金になっている。マガジンも、SEAの現場を可視化し、多様な視点で洞察するメディアとして、2018年に創刊された。
今回のリストラで、時間とお金のかかる公募ではなく、コミッションによっていくつかのプロジェクトを支援するかたちに変更するという。活動は大幅に縮小されるが、組織を消滅させないためにこの方法を選んだと、エグゼクティブ・ディレクターのデボラ・フィッシャーはartnetnewsのインタビューで答えている。“a beloved organization”と表現されたこのNPOの、未来に向けての最構築を、これからも期待を持って見ていきたい。
2020.10.7(秋葉美知子)
ABOGのデホラ・フィッシャー、NYのロックダウン下で自らの思いを述べる
このブログでたびたび紹介しているSEA支援に特化したアートNPO、ア・ブレイド・オブ・グラス(ABOG)の創立者兼ディレクターのデボラ・フィッシャーが、コロナ危機で組織の予算が蒸発していく中、社会的価値を追求する非営利文化機関はどのようにして活動を継続するか、「artnet news」のOpinion欄で前向きに持論を述べている。日本でのSEAの可能性を考える上でも参考になる内容なので、以下、その一部を引用したい。
- 私たちが大切にするアート、そしてそれをどのように評価するかは、私たちを取り巻く世界とともに変化する必要があります。
- すでに私たちはある種のアートを過大に評価しているとも言えますが(ブロックバスター展覧会とかコレクターが買っている記念品とか)、私は、今この時期が単に文化的投資を増加させるのではなく、再調整する機会を提供していると思います。私たちは何でも好きなものを大切にすることができます。私たちは、ジェフ・クーンズの彫刻やそれを認めるマーケットの力を、ミゲル・ルチアーノのようなアーティストがイーストハーレムで長年続けている取り組みよりも高く評価する必要はありません。
- 私たちは、生きたい人生をサポートするようなやり方で、芸術文化の評価を決定する力を持っています。
- 今この時期から生まれる作品の成功は、マーケットでの価値ではなく、コミュニティの文脈で人間のニーズを満たすアートを高く評価する私たちの新たな能力にかかっています。私たちはアートの鑑賞者や支援者として、この機会を利用すべきです。
- この新しいパラダイムでは、たぶん、アートはより専門性が低くなるでしょう。しかし、それは、より今日的意味を持ち、浸透性があり、参加型になることによって野望の感覚を持ち続けるでしょう。芸術機関(アート・インスティチューション)の成功は、アートから得られる、つながりや参加の感情の価値をサポートし、増幅することにかかってくると思います。
- ABOGは、約10年間、自分たちのワークを生活と一体化するために、意図的で熟考した選択を行っているアーティストたちに焦点を当ててきました。私たちは、アーティストがコミュニティと協働するときに何が可能かについて、その最も野心的な事例を見出しています。そして、アーティストが普通の人々とテーブルを囲みながら、壮大で夢のようなものを共同制作できることに驚かされ続けています。たとえば、ローリー・ジョー・レイノルズが最厳戒刑務所を閉鎖したプロジェクトや、LAPDがロサンゼルスのスキッド・ロウで7,000戸の低所得層向け住宅を確保するプロジェクト、ドレッド・スコットが何千人もの参加者を得て行った奴隷の武装蜂起の再現といった。
- このアートはパワフルです。なぜなら、参加者と鑑賞者に世界における自身の力と行動を考えるように促すから。
- 私たちが尊重するアートの価値が根本的に社会的なものである場合、最も強力な資金調達戦略は、その(アートの)社会的価値を明確に示すことからもたらされます。コレクターが買うことができないアートに資金を調達するために、他に方法があるでしょうか?
- アートが公共のリソースとして位置付けられているなら、広範囲で新規の資金的支援を得るのは、従来言われているよりは簡単だと思います。
- 具体的な社会的価値を持つアート・プロジェクトに対する支援の手は増えるでしょう。ABOGのフェローシップ・プロジェクトは、ニューヨーク市の保護観察局のような市の部局やデンバーのローズ・メディカル・センターのような医療機関からすでに支援を得ています。これらの支援はフィランソロピーではありませんし、芸術のための芸術に向けたものでもありません。
- 時が経つにつれ、以前は芸術の価値をサポートしたり理解してこなかった財団や政府などの資金提供源からの支援が増える可能性があります。
- 現在の危機に直面して、私たちは皆、このアプローチを拡大する準備ができているかもしれません。私はコミュニティ主導のアートのための予算を約10年間調達してきました。他の人々に与える価値と影響を明確に示すことでそれを実現しています。誤解しないでください。このアプローチは直接取引ではないため、他のタイプの資金調達や制度構築よりもはるかに困難です。私は、刑務所やテキサス州の国境の町で起こっているプロジェクトへの関与を求めています。それらのプロジェクトは所有することができませんし、その恩恵は、出資者が決して会うことがないかもしれない人々に与えられるものです。
- 私の組織において、最高の寄付者やリーダーは、アーティストたちの急進的な活動を本当に理解したいと思っています。彼らは挑戦されたいと望んでおり、芸術は彼らの人生と行動を変化させています。ドレッド・スコットによる奴隷の反乱の再現を目撃するための最近のドナー旅行で、私は参加した支援者たちの寛大さ、そして彼らがクールなスペクタクルを体験するだけでなく、戸惑いをこらえながらも、我々皆が責任を負わねばならない歴史を前向きに学ぼうとするのをありがたく思いました。このレベルの関与を求めることは難しいでしょうが、こういった人々はすでにアートを信頼し、評価し、挑戦的で、深く、社会的に重要と感じる方法でアートを楽しむことを渇望しています。
- 私はもちろん、未来を心配しており、それはセクターとしての芸術に経済的打撃もたらすと思います。しかし、私たちはこの未来についてかなり長い間リハーサルをしていて、そこに豊富(なリソース)を見つけるためのツールを持っていると感じています。
2020.5.1(秋葉美知子)
Stay Homeでアート体験
新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、世界各国で施設の休業や市民の外出禁止や自粛が求められている。芸術文化への影響も大きく、ドイツ、イギリス、フランス、イタリアなどでは芸術団体やアーティストに対して大規模な公的支援が行われ、アメリカでもNEA(全米芸術基金)が非営利の芸術団体への緊急支援を決定している。それに比べると、日本の対応は危機感がなさすぎるように感じてしまう。以下、文化庁が発信している「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」(文芸術関連部分の抜粋)
https://www.bunka.go.jp/koho_hodo_oshirase/sonota_oshirase/pdf/20200206_09.pdf
一方、Stay Homeの呼びかけに応じて、家に閉じこもっているアートラヴァーに向けた情報提供も増えている。
世界各地で実践されてきたSEAを紹介する「リビング・アズ・フォーム」展の巡回展(ノマディック・パージョン)をコーディネートしたIndependent Curators International (ICI)は、29人のアーティストが参加した「紙の彫刻展 The Paper Sculpture Show」の作品をDIYマニュアルにしてウェブ公開している。
「世界中の多くの人々がソーシャル・ディスタンスを取り、家にとどまるように要請されている中、ICIは紙の彫刻展のデザインをダウンロードして印刷できるマニュアルとしてシェアし、パソコン画面から離れた、室内空間でのアート体験を提供します」
カラフルでポップなものから抽象的な造形まで、多様な作品の展開図が収録されているので、気に入ったものを見つけて厚紙にプリントし、挑戦してみては。
また、やはりパソコン画面から離れられない人は、Google Arts & Cultureの「Collections」で世界中の2,500館のミュージアムをバーチャル・ツアーしてはどうだろう。
https://artsandculture.google.com/partner?hl=en
2020.4.23(秋葉美知子)
SEAの現在地を描き出す米国のレポート
ソーシャリー・エンゲイジド・アート(SEA)に関する歴史、理論研究や事例報告などが増える中、米国のコンサルティング会社ヘリコン・コラボレイティブが、SEAの現在地が非常によくわかるレポート「Mapping the Landscape of Socially Engaged Artistic Practice」をウェブサイトで公開している。主にアーティストやプログラム・ディレクター、資金提供者など実践に関わる人々へのヒアリングをもとにまとめられていて、なるほどと思わせるコメントや考察が数多く記述されている。
本レポートは、「ソーシャリー・エンゲイジド・アートの実用的な定義は、特定のコミュニティまたは世界全体の状況を改善することを目的とした芸術的または創造的な実践」とし、これに「スタジオ・アート」を対峙させている。「スタジオ・アート」は、「アーティストが主に作品の形式的または美的クオリティの開発に焦点を当て、オーディエンスに発表する芸術作品の制作を目的とする実践」と定義している。現在のアートスクールの教育や作品クオリティの評価、芸術支援の制度はスタジオ・アートの伝統に基づいており、このアプローチは多様な発展の系譜を持つSEAには適しておらず、独自の知識・理解の枠組みが必要だという。
もちろん、SEAを前述のようにかなり幅広く定義すると、多様なバリエーションが含まれる。このレポートが面白いのは、それらをタイプ分けするのに役立つ9つの指標(美学、アーティストの役割、アーティストの出身地/拠点、workの定義、影響の方向性、workの創始、場所、課題、継続期間)を提示していることだ(右図)。個別のプロジェクトについて、これらの指標ごとにプロットして折れ線を描いていけば、プロジェクトのタイプを総合的に理解でき、支援や評価にも役立ちそうだ。
2020.2.28(秋葉美知子)
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